連載
九州観光列車の旅
第五章「二つの力」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 サラリーマン、高橋克郎、三十五歳は、会いに行った私立探偵に向って、こう証言したという。
「私の方が追突したんですが、キャンピングカーに乗っていた女性が、急いでいるので、この事故は無かったことにしたい。そう言われたので、私も、事故は無かったことにして別れました」
 多分、そのキャンピングカーには健一君が乗っていて、時間内に、鹿児島中央のホテルまで運ばなければならないので、急いでいたのだろうと橋本は考えて、十津川に報告した。
 そこから先は、十津川が、上役には黙って部下の刑事を使い、捜査することになった。
 そこで計画通り、一日だけ、刑事たちに休暇を取らせ、新宿のカフェで、十津川を中心に、捜査会議を開いた。
 十津川が、言った。
「問題は、総理を挟んで、二つのグループが出来ていた。『鷹の羽会』と、『山の会』の二つだ。小西栄太郎の事件について、動いたのは、『鷹の羽会』だと思う。今回の総理夫人の殺人については、『山の会』だろう。二つの会の間に亀井刑事の息子、健一君を、誘拐して監禁していたキャンピングカーがある。二つの会は、仲が悪かったと言われているが、自分たちの総理大臣を守るため、あるいは、何かと問題を起こす総理夫人を排除するために、亀井刑事を使い、息子の健一君を、監禁するのに、キャンピングカーを使っている」
「鍵は、そのキャンピングカーに乗っていたという、女性二人ですね」
 と、三田村刑事が言う。
「二人とも大柄な女性だということだ。ひょっとすると、男が化けているのかもしれない」
「どうやって調べるか。手掛かりは?」
「猫ですね。シンガプーラという猫です。最近発見された新種で、意外に、高いんですよ。シンガプーラの野良猫を、拾ったということは考えられませんから、どこかで、買ったに違いありません。キャンピングカーで健一君を監禁していた犯人たちが東京の人間だとすれば、意外に早く犯人が、見つかるかもしれません」
 三田村刑事が言った。
 刑事七人、全員が、シンガプーラの線を追うことになった。十津川が調べた所によれば、シンガプーラの子猫は、一匹十八万円から二十万円はするという。
 まず、日本でシンガプーラのブリーダーをやっている人間を、見つけ、そこから辿っていくことにした。
 現在、日本で、シンガプーラの輸入と繁殖を事業としてやっている会社は二社。東京と大阪にあり、デパートあるいはスーパーなどで、子猫の販売をしている時に、シンガプーラを供給するのは、東京では四谷にある会社。大阪の場合は、天王寺である。そこでまず、東京・四谷にある猫の輸入会社に、話を聞きに行った。行ったのは、三田村と、北条早苗刑事の二人である。
 そこにはシンガプーラの子猫を買った、飼い主の名前も、書かれていた。新しい種類なのでそれほどたくさんの人間は、シンガプーラを買ってはいなかった。全部で五十二人である。
 十津川たちは、飼い主たちを、片っ端から調べていった。たった一日の休暇である。二度と、一斉に、休暇を取ることは、許可されないだろう。そこで、この日の内に、突破口を開きたかったのだ。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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