連載
九州観光列車の旅
第六章「亀井救出の道」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 十津川は考えた。
 相次いで二つの事件が起きている。そのいずれにも、亀井刑事と亀井刑事の長男、健一、十一歳が絡んでいる。
 最初に、九州で健一が誘拐された。犯人の目的は現役の刑事・亀井を使って、小西栄太郎の犯罪を実証する手紙、アリバイの無さを証明する手紙を奪い取ることだった。
 しかし、それには失敗したが、小西栄太郎自身が病気で死んでしまった。当然、誘拐・監禁された亀井刑事の息子健一が、解放されるはずだったが、それがないどころか、亀井刑事に九州の特急を乗り継いで、熊本から鹿児島中央まで乗ることが犯人に指示され、その間の亀井刑事のアリバイが、消えてしまった。
 現在、亀井刑事は、片山総理夫人殺害の容疑者として逮捕されている。この二つの事件の間に、何らかの関係があると考えるのが、当然だろう。
 だが、どんな関係があるのだろうか? 同じ犯人なのだろうか? 同じ犯人が、誘拐した亀井刑事の息子健一をそのまま監禁しておいて、片山総理夫人の殺害に利用したのだろうか?
 二つの事件の間、誘拐されていた亀井刑事の息子健一・十一歳は、釈放されていない。したがって、二つの事件は繋がっているように見える。
 しかし、十津川は、そうは考えなかった。
 第一の事件で、犯人が助けようとした小西栄太郎は、たしかに著名な政治家で、外務大臣までした男だが、幼い女の子を三人も殺した殺人の容疑者である。それに比べて、今回殺されたのは、片山総理の夫人で、犯罪者ではない。
 さらにいえば、犯人が何もしなければ、片山総理は現職の総理として活躍しているし、夫人の信江も、さまざまな舞台で活躍している女性である。その点が第一の事件と違うのだ。
 それを、どう考えたらいいのか。
 十津川は、亀井刑事の事件を、正式には、捜査することを禁じられている。現在、亀井刑事に関する事件を、担当しているのは、違う署の警部と、その部下たちである。
 しかし、十津川は、捜査を禁じられているからといって、ただ傍観しているわけにはいかなかった。
 そこで、部下の刑事たちを集め、密かに今回の事件について、捜査を進めていた。今日も若い刑事たちを集めて、今回の二番目の事件、片山総理夫人が殺された事件と、亀井刑事がその容疑者として逮捕されたことについて、十津川は自分の意見を言い、他の刑事たちの意見も聞くことにした。
「わたしは、第一の事件と第二の事件とを調べてみると、どうも犯人は別人ではないのかと思うようになっている。そう考えざるを得ないんだよ」
 いきなり十津川が言うと、案の定、若い刑事たちの間から反対意見が飛び出した。例えば、日下刑事である。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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