連載
九州観光列車の旅
第六章「亀井救出の道」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「それは考えられません。第一、最初の事件で誘拐された亀井刑事の長男、健一君、十一歳は、その後、解放されることなく、第二の事件が生れ、その後、犯人はやっと、健一君を解放しましたが、代わりに父親が殺人容疑者として逮捕されてしまいました。その上、二つの事件は、現在の与党保守党に絡む事件です。この二つを考えれば、どう見ても二つの事件の犯人が、別人だとは、思えません」
 しかし、日下の反論は十津川の予期したものだった。事件の関係者の多くは、日下刑事のように考えるだろう。十津川自身最初は、同じように考えていたのである。
「しかし、違うところもある。たしかに、二つの事件とも与党が絡んでいるが、第一の事件で、犯人が助けようとしたのは、外務大臣をやったことのある小西栄太郎、今回は片山総理、あるいは、総理夫人だ。しかし、この二人は与党内の派閥が違う。それから片方は、殺人容疑を受けている人間を、助けようとしているが、今回はそうした目的は無い。また、第二の事件では、犯人はいち早く亀井刑事の息子健一君を、解放している。そうした細かい点を見れば、私にはどうしても同一犯人とは思えないんだ」
 十津川が言うと、今度は三田村刑事が反論した。
「第一に、人質の健一君はキャンピングカーから動かされないでいたように思います。今回の事件のあと、たしかに健一君は解放されましたが、これは犯人が今回、亀井刑事を、殺人の容疑者にすることに成功して、事件を終了させたと考えて、解放したのだと思われますが、その点は、どう考えられますか?」
「たしかに、健一君は二つの事件を通してキャンピングカーに監禁されている。したがって監禁されていた場所は、キャンピングカーの中、それも同じ車両としか考えられない。それでも、私はどうしても、犯人が別人のように思えて仕方がないんだ」
「警部がそう考える理由は、何ですか? 第一の事件の関係者、小西栄太郎と今回の事件、片山総理と同じ保守党でも派閥が違うからですか?」
「それと、何となく違うような『匂い』と言ったらいいのかな」
「それでは、なぜ健一君は、同じキャンピングカーの中に、監禁されていたんでしょうか? 犯人が違うのに」
 と、日下が聞く。
 それに対して十津川は、こう答えた。
「私はね、今回の誘拐犯人は単なる誘拐犯ではなくて、誘拐ブローカーのような気がしてしょうがないんだ」
 集まっていた刑事たちの中には、「えっ」と声を出す者もいれば、
「警部は本当に、そんなブローカーがいると考えておられるのですか?」
 と、十津川に、質問をぶつけてくる刑事もいた。それに対して十津川が言った。
「私はね、誘拐や殺人を職業にしているブローカーのような存在を感じるんだ。このブローカーは刑事の息子を誘拐すれば、儲かると考えて、手はじめに、九州で、亀井刑事の息子を誘拐した。ところが、金儲けになると思った小西栄太郎が、亡くなってしまった。そこで今度は、片山総理と総理夫人の間が、ギクシャクしている。しかも、後援会が二つもできていて、お互いに、非難しあっている。そこで、これは、金になると考えて誘拐した健一君を、家族に返さず、売り込んだ。私は今回の事件について、そんなふうに考えざるを得ないのだよ」



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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