連載
九州観光列車の旅
第六章「亀井救出の道」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 十津川は、さらに、自分の考えを刑事たちに説明した。
「今の世の中、誘拐ブローカーでも一件では儲からないのではないか。そこで誘拐をすると、一回だけではなく二回、三回と売りさばくのではないか。そんな眼で今回の犯人について考えてみた。明らかに最初は、小西栄太郎を助けるためならば、誰かが、金を払うだろう。そう考えて亀井刑事の息子を、誘拐した。ところが、肝心の小西栄太郎が病気がちで、裁判にも出られない。このままではたぶん、長くないだろう。死んでしまえば客は、金を払わなくなるのではないか。それを不安に思った犯人は、最初から、第二の買い手を、探していたと思うんだよ。それが、同じ与党の片山総理夫妻だ。夫妻の仲が悪いこと、片山総理の支持者の中には、夫人を疫病神だと思っている連中もいる。それが、『山の会』の人間たちだ。逆に夫人の後援者たちの『鷹の羽会』は『山の会』を敵視している。さらに犯人は調べていき、『山の会』の後援者の中に亀井刑事に、よく似た男がいることを見つけ出した。そして、これは、利用できる。片山総理夫人を日頃から敬遠している『山の会』ならば、誘拐した亀井刑事の息子、健一君を、売れるのではないか。そう、考えていたんだと思う。その内に、小西栄太郎が、危惧した通り病死してしまった。そこですぐ、犯人は、予定していた第二の買い手に打診したんだと思う。そして、売りつけた。私にはどうしても、そんなふうにしか今回の事件は考えられないんだ」
 この十津川の言葉に対しても反論があった。例えば、北条早苗刑事は、こう言った。
「誘拐犯人が、誘拐した人質を種にして何人もに売っていく。そんなことをしたら、犯人自身の危険も、倍加するんじゃないでしょうか。元々誘拐は、危険な犯罪ですから、そんな危険は冒さないと思いますが」
「たしかにその通りだ。だが、私は、こんなふうに思ったんだよ。現代はプロの殺人者もなかなか買い手がつかない。なぜなら、殺し屋に頼まずに普通の人間が簡単に殺人をするからだ。金を使って、殺し屋を雇うような悠長な時代では、なくなってしまった。例えば、急に人殺しをしたくなったと言って、トラックを使って何人もの人間を轢き殺してしまう。そんな人間が現れる世の中だからね。昔のように、まず自分のアリバイを作っておいて、金を使って殺し屋を頼む。そんなのんびりした時代ではなくなってしまった。昔に比べて、殺し屋を雇うために金を使うような人間は少なくなったんじゃないか。だから、今回の誘拐犯は、一件だけでは儲からないので、誘拐した健一君と、父親で現職刑事の亀井刑事を込みで、二つのグループに売りつけた。たしかに、北条刑事が言うように、犯人は、危険が倍加する。それでも儲けるためにやむを得ず、二つのグループに、売りつけた。そう考えると、われわれの力で、何とかこのブローカーを見つけ出したい。向こうも危ない橋を渡っているんだからね」
 と、十津川が言った。
「しかし、今回の事件の捜査は、全て品川署がやっていますから、われわれは、動きが取れませんよ」
 悔しそうに、日下が言った。
「だから、それを、冷静に考えてみるんだ。われわれに、いったい何ができるかをね。まず、今回の事件についてもう一度、考え直してみよう」



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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