連載
九州観光列車の旅
第六章「亀井救出の道」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 三上刑事部長からは、下手に動くな、静かにしていろと、厳命されていた。
 それでも、もし、亀井刑事を、助ける方法が見つかった時には、辞表覚悟で十津川は、動くつもりでいた。従って、それまでは、いたずらに動いてしまうと、かえって亀井刑事を、助けられなくなる。
 そこで、動かずに、刑事たちと考える時間の方が自然に、多くなった。
「亀井刑事が、片山総理夫人を殺したと、証言している人間は、現在六人います。問題の日、県人会の行われたホテルで働いていた六人です。念のため、手帳に書き留めておきました。名前は海原献一郎、工藤夏彦、秋山実、池田裕介、そして他に女性二人。この六人が片山総理夫人の指揮で、県人会の用意していたホテルに、亀井刑事もいたと証言しています。なかのひとり池田には、私と警部が、女性二人と秋山実には、三田村刑事と北条刑事がすでに話を聞いている。しかし、できればこの六人を一堂に集めて誰の命令で、動いているのか、証言しているのか、それを聞いてみたいと思いますね」
 と、日下刑事が言う。
「私もそれを、考えたが、今の状況では無理だ。この六人は、今回の殺人事件の証人として、品川署の刑事たちが見張っているから、簡単に彼らから話を聞くことはできない」
 と、十津川が言った。
「亀井刑事のそっくりさんがいるわけです。亀井刑事本人が逮捕されてからは、そっくりさんの方は姿を見せていません。国内のどこかに監禁されているのか、国外に逃げているのかは分かりませんが、何とかして、捕まえられませんか?」
 三田村刑事が言った。
「今のところ、この男がどこにいるのか分からない。われわれが探すわけには、いかないので、一応、私立探偵の橋本豊に頼んで探してもらっているが、まだ、見つかったという報告は無い」
 十津川は、軽いいらだちを見せていた。
 この日の最後に、十津川は、一つの新聞記事を刑事たちに、コピーして配った。
 それは、五年前の新聞記事だった。
「中国新聞が、一つの特ダネを掴んで記事にした。今から五年前、夏休みに入った小学校で、一年生の少女が誘拐された。その後、少女の父親は、京都府警の現職の刑事であることが分かった。その刑事は、二日後、保津川下りの遊覧船の中で、船客の一人、京都副知事(五十八歳)を刺した後、副知事を道づれに保津川に飛び込み、両者とも死亡した。ところが、誘拐された少女は、すぐには解放されなかった。十日後、京都で、殺された副知事の代わりに、通産省の事務次官を、務めた後、副知事に、指名された女性がいた。彼女は、何者かに狙われて危うく命を落とすところだったが、かろうじて助かった。なおその副知事は、二年後の選挙で、知事になった。誘拐された少女は、その途中で解放されたが、少女の証言によれば今回と同じように、車の中に監禁されていたと証言している」
「この事件は、まだ解決していません。また、今回の事件に似ていますが、同一犯人かどうかは分かりません」
 日下は、慎重に言った。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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