連載
九州観光列車の旅
第六章「亀井救出の道」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 翌日、十津川と日下刑事と北条早苗刑事の三人が、東京駅で京都府警の三浦警部を、出迎え、八重洲口のカフェで話を聞くことになった。
 三浦警部は会うなり、
「いろいろと大変ですね」
 と言った。
「その通りです」
 と十津川が応じた。
 八重洲口のビルの中にあるカフェである。わざと、窓際の席を取り、まず三浦警部から、問題の事件の話を聞くことにした。
「京都府警でも、今回、東京で起きた事件が五年前の事件に、よく似ているなと刑事たちが言っていますよ」
 と三浦が言った。
「こちらも同感です」
 十津川が肯く。
「こちらは、三浦さんが言った言葉に、助けられました。第一、第二の事件を、同じ犯人だと考えたのが、失敗だったと言われましたね? 今でも、そう、思っているんですか?」
「最初は、絶対に事件の背後に、一人の犯人がいると考えました。同一犯としか考えられなかった。しかし、失敗を繰り返しているうちに、別の犯人と考えた方がいいのではないか、そう考えるようになったのです」
「どうして、同一犯人だと考えてしまったのですか?」
「それは、人質に取られた少女が、第一の事件の時も、第二の事件の時も同じように誘拐されたままだったからです。同一犯人が少女を誘拐して、最初の時は少女の父親を動かし、第二の事件では、別の誰かを動かしているのではないか。そのために、人質を返さないのではないか。そう考えたのです。五年前にそう考えた時には、絶対に間違っていないと思いましたね」
「全く同じ状況が、東京で起きています。そこで、三浦さんから、なぜ同一犯人だと思ったのか、なぜ捜査が、うまくいっていなかったか、なぜ迷宮入りしてしまったのか、それをぜひ聞かせていただきたいのです。下手をすると、東京で起きている事件も、迷宮入りになる恐れがあるのです」
 十津川が正直に言った。
「まず最初に言いたいのは、京都府警に設けられた捜査本部は、最初から、ほとんど全員が同一犯人による事件だと考えました。それは、同一犯人だと考えた方が、筋が通るからです。まず、人質です。第一の事件の時も誘拐されたまま。第二の殺人事件の時も、その事件が終わってからやっと人質の少女は返されています。それで、どう考えても誰の目にも、この二つの事件は、同一犯人、そして人質を有効に使って犯行を、重ねた。そういうふうにしか、思えなかったのです。もう一つ、事件の対象が同じように、見えたからです。第一の事件では、京都府の副知事が、殺されました。第二の事件では、代わって副知事になった女性が、二年後には知事になりましたが、副知事時代にしばしば何者かに襲われて、危うく死ぬところでした。これはどう考えても同一犯人が人質を使って殺人を、実行した。そう考えるのが、自然だったのです。第一の殺人事件、人質の父親の現職の刑事が犯人でしたが、死んでしまいました。第二の事件、代わって副知事になった女性が、ねらわれましたが、第一の事件と同じように、第二の事件でも、副知事に対して面白くないと思っている者が、犯人で、その犯人は第一の事件の時にも、現職の刑事の娘を誘拐して、父親に、殺人を実行させた。第二の事件では同じように、新しい副知事を狙わせた。京都府警の全員が、同じように考えていたんです。しかし、捜査を進めているうちに、少しずつ、殺人の証拠品は見つかってきましたが、それが、われわれの考えるものと、上手く噛み合わないのです。われわれの考えと、ぴったり合う証拠品が、見つからないんです。違ったものが見つかってしまう。そうなると、事件の本筋からわれわれの捜査が外れていくような気がしましてね。五年目になった今、捜査方針を変えようと考えているのです」



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章「亀井救出の道」2
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