連載
九州観光列車の旅
第六章「亀井救出の道」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「第二の事件ですが、たしか当選した女性知事が副知事時代、女性に襲われたんでしたね?」
「そうです。容疑者は、誘拐され人質になった少女の母親です。まず父親が、犯人に脅迫されたと思われるんですが、保津川での遊覧船の中で時の副知事を刺して、一緒に船から飛び降りて、その後、二人とも死体で発見されました。これは、あまりにもはっきりとした事件だったので、捜査はなく、犯人死亡ということになりました。続いて第二の事件が起きました。十津川さんが説明した通り、狙われたのは、新しく副知事になった女性で、その容疑者は、誘拐された少女の母親でした。この母親は夫と同じように、刑事でしたが、辞めていて、空手二段の腕前でした。第一の事件と同じように、犯人が、人質を返さずに、娘の命と引き換えに知事を襲うように命令した。われわれは、そう考えて彼女を殺人未遂で逮捕したのですが、調べてみると、人質の娘が、釈放されてから、女性知事を、襲っていると分かりました。動機が消えてしまったのです。それでも他に有力な容疑者がいないので、一年近く、いやもっと長く、犯人は少女の母親だと、考え続けました。しかし、動機は見つからず、アリバイは曖昧なので、その点からは、容疑者として逮捕できたんですが、いくら探しても、直接的な証拠は見つかりません。結局、彼女は釈放せざるを得ませんでした。そして、現在は彼女の再逮捕も諦めています。しかし、他にこれといった容疑者が見つからないので、困っています」
「しかし、女性副知事に反対する勢力というものが、あったんじゃありませんか? 新しい副知事を、面白くないと見ている人たちがいれば、その中に、殺人未遂犯がいる。そんなふうにも考えられるんじゃありませんか?」
 十津川が聞くと、三浦は頷いて、
「その通りです。最初は、そうした容疑者を捜しました。京都という町は、新しいものと、全く古いものが、同居していますから、女性の知事に対して、面白くないという人たちもいることは、間違いないのです。ですから、そうした中にも、犯人がいるのではないかと考えて捜査を、進めました。たしかに、容疑者らしき者が何人か見つかりました。女性の知事など、古都京都には、似合わないと、知事の公邸に花火爆弾を送り付けた人もいます。そうした人間たちは、逮捕し、容疑者として、捜査を進めたんですが、全員アリバイがあったりして容疑者がどんどん少なくなっていきました。それでも、われわれとしては、誘拐犯がいて、誘拐した少女を使い、第一の事件で、副知事を殺し、第二の事件では、新しい女性副知事を殺そうとした。誘拐犯が、誘拐した少女を使って脅迫した。われわれは、そう考えていたわけです。捜査していれば、そのうちに、誘拐犯も見つかるのではないか、そんなふうに楽観していたわけです」
「その点は、こちらでも、同じですよ。しかし、この考えでは、今回の事件は解明できなのではないか、もう少し考えて、今回の事件を見直した方がいいのではないか。私はそんなふうに思っているのです。そこで、同じような事件を、扱った京都府警の三浦さんの話を聞きたかったんですよ。今、聞きますと、そちらの事件は要約するとこうなるんですか。少女を、誘拐した犯人がいたが、犯人は京都の知事と、知事選挙に絡んで、自分を、売りつけた。そう考えたということになりますね?」
「その通りです。二回事件があったが、その間、誘拐された少女は帰ってきませんでしたし、人質を使って、殺人者を作り事件を起こしている。したがって、大元のところでは、犯人は同一人だとわれわれは、考えているわけです。警視庁でも、同じように考えているのではありませんか?」
 三浦が、聞いた。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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