連載
九州観光列車の旅
第六章「亀井救出の道」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「申し訳ありません。探偵の小林ですが、旅行に行ってしまいました。武蔵小山の駅近くのマンションに住んでいるのですが、マンションの管理人の話では、お金が入ったので、東南アジアに行ってくると言って、出かけたそうです」
「連絡は、取れないか?」
「今、何とか連絡を取ろうと思っているんですが、電話が、かかりません」
 と、橋本は続けて、
「彼のマンションは二DKの部屋なんですが、私は、一般人ですから勝手に中には入れません」
「それでは、こちらから、一人刑事を向かわせる。その刑事と、相談してくれ」
 と、十津川は言った。
 亀井刑事のための捜査は禁じられているが、十津川たちは、何かあれば一人だけ、休みを取って、行動することにしていた。そこで今回は、日下刑事を武蔵小山に、やることにした。
 日下一人が、休暇届を出し、東横線の武蔵小山に行き、駅前で、待っていた橋本と一緒になった。武蔵小山駅は、駅前の商店街が長いので、有名である。
 問題のマンションは、商店街の裏手にあった。五階建てのマンションの五階、五〇一号室。二DKの部屋が、住居兼探偵事務所だった。
「捜索令状は取れましたか?」
 と、橋本が聞く。
「そんな物は、取れないに決まっているだろう。私たちは、今回は捜査に参加すること自体が、禁止されているんだ」
「それでは、部屋の中を、調べるのは無理でしょう?」
「いや、勝手に、調べるよ。亀井刑事を殺人犯にはしたくないからね」
 それでも、日下は、一応警察手帳を見せ、管理人に、五〇一号室のドアを開けてもらった。
 玄関を入ってすぐの六畳が、事務所になっていて、簡単な応接セットが置いてある。そして、奥の六畳が住居である。と言っても、備え付けの簡易ベッドがあり、あとはテレビなどが置いてある。それだけの部屋だった。
 日下は部屋の中を見回してから、
「こちらの推理が当たっていたら、われわれの捜している犯人が、小林という私立探偵を雇ったことになる。だが、なぜ、この私立探偵を、選んだんだろう?」
 と、橋本に聞いた。
「あれから調べたんだが、小林という探偵は、ちょっとした事件を起こして現在、警察から、私立探偵の仕事を止められているんだ。犯人にしてみれば、それなら金さえ払えば何でもする。口が堅いだろう。そう思って、頼んだんだと思うね」
 橋本にしてみれば、日下は、昔の同僚である。自然に乱暴な口調になる。
 狭い部屋なので探すところは限られていた。日下にしてみれば、小林という私立探偵に、九州の特急列車の決まった日付の切符を二枚頼んできた犯人の手掛かりを、つかみたかった。
 しかし、いくら調べてもそれらしいものは見つからないのだ。



   4     次へ
 
〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
Back number
第六章「亀井救出の道」2
第六章「亀井救出の道」
第五章「二つの力」2
第五章「二つの力」
第四章「別件逮捕」2
第四章「別件逮捕」
第三章 特急いさぶろうと特急はやとの風2
第三章 特急いさぶろうと特急はやとの風
第二章 男と女の動き2
第二章 男と女の動き
第一章 或る列車2
第一章 或る列車