連載
九州観光列車の旅
第六章「亀井救出の道」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 日下が困っていると、橋本が笑って、
「この裏に、隠してあれば、と思っているんだが」
 机の引き出しを、抜いた。その後、手を突っ込んでいたが、机の裏側から一枚の写真を取り出して、日下の前に置いた。男が一人、写っていた。
「小林という探偵は、自分のところに調査を頼みに来た客を、必ず隠しカメラで撮るんだよ。そうしておいて、法に触れるような仕事を頼まれた時には、頼んだ相手を、強請(ゆす)ったりしていた。それがバレて仕事ができなくなっていたんだ。たぶん、この男の写真も、小林が隠しカメラで、撮ったに違いないんだ」
 その後、念入りに、二DKの部屋を調べたが、何も見つからなかった。
 日下は、一枚の写真だけを持って警視庁に出勤した。男の写真は、全員で見た。三田村や北条早苗刑事も、その写真を見た。平凡な、三十代の男の写真である。
 もし、これが、今回の事件の犯人だとすれば、一つの収穫なのだが、犯人だという証拠は、何も無い。
 それでも、十津川は、この三十代の平凡な男を、調べてみることにした。可能性は少ないが、犯人かも知れないからである。
「皆も何か気がついたら言ってくれ」
 十津川が、刑事たちの顔を見回した。
「背広の襟に付いているバッジなんですが、背広に比べて、いやに、大きいですね」
 と、三田村が言った。
 たしかに、不自然に、大きなバッジだった。
 十津川が引き出しから虫眼鏡を取り出して、それを通して、バッジを見直した。銀色のバッジである。よく見れば、銀色に光る星のマークである。
「まさか、天に輝く星じゃないだろうね」
 十津川が笑った。
「これ、陰陽師のマークじゃありませんか?」
 と、北条早苗刑事が言った。
「陰陽師?」
 と、十津川が首を傾げる。それに向かって、早苗が言った。
「京都には、有名な安倍晴明の神社があります。あそこで、これと同じ星のマークを見たんですよ。たしか、これは、平安時代でいえば陰陽師が使っているマークです」
「しかし、今回の事件は誘拐と殺人という最も現代的な犯罪だよ。それが、どうして陰陽師の話が出てくるんだ?」
 日下の声が荒くなる。
 全員がピリピリしていた。
「京都だからね」
 と、早苗が言った。
「京都には、今でも陰陽師がいるのか?」
「それは知らないけど、陰陽道を信じている京都人がいるかも知れないわ」
「陰陽道って何なんだ?」
「百科事典で引くと、こうなっているわ」
 早苗は、手帳を取り出して、読んだ。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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