連載
九州観光列車の旅
第六章「亀井救出の道」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「中国起源の陰陽五行の思想に基づいて、平安時代に盛んに行われた方術。日本伝来は六世紀頃だが、陰陽五行思想は、すでに仏教や道教の影響で俗信化されており、災いを避け、福を招く方法として卜筮(ぼくぜい)などに重きを置くようになった。十一世紀以降は公的には衰退したものの、冠婚葬祭の吉凶、方角、相性、加持祈祷などに根を下ろしていたが、一八七三年に禁止された。以上」
「一八七三年には、禁止されているじゃないか」
「でも、逆に民間では、消えずに続いているのよ。私たちだって意識せずに、陰陽道を実行しているんだと思う。占いだって盛んだし、縁起を担ぐ人は多い。特に京都は、今も盛んなんだと思う」
 と、北条刑事が負けずに強調する。
 十津川が見かねて、割って入った。
「とにかく、これを陰陽道のマークとして事件との関係を捜査してみようじゃないか。それに、五年前の事件は、京都で起きているんだ。殺人犯人というのは、縁起を担ぐというからな」
 十津川は、京都に安倍晴明を祀る神社があることは知っていた。が、陰陽道に詳しいわけでもない。
 ただ、「古都」という言葉を、十津川は、思い浮かべていた。
 それに、その古都に住む人々の心である。
 翌日は、日下に代わって三田村刑事が休暇を取って、橋本と写真の男の付けているバッジについて調べることになった。
 まず銀座にあるバッジの専門店を訪ねる。
「これは、うちで扱ったものじゃありませんが、うちにバッジコレクターがいますので、ご紹介しましょう」
 と、店長は、その男、金田徳一という七十歳の店員を紹介してくれた。
 金田は、二人の質問に対して、あっさりと、
「数年前に、ある団体が生れましてね。人数は九人、今も、この人数は変わらないはずです。会の名称は『古代大和』です」
 と、言った。
「どんな団体なんですか?」
「今の日本は、全てが汚れている。政治も経済も人間もです。それで、古代の日本、大和に帰れをモットーにした団体です」
「九人というのは、いやに半端ですが」
「陰陽道では、奇数は吉、偶数は凶といわれています。三月三日や五月五日は、奇数が重なるので祝日です。逆に、四十二歳は偶数が重なるので、男の厄年になっています」
「分かりました。九は、奇数の中で最大数だから、縁起がいいわけですね」
「その通りです。九は最高の吉数です」
「この団体は、古代日本、古代大和に帰れということですが、現代政治に対しても文句があるということはないんですか?」
「私は、この会の人間ではないので、正確には分かりませんが、九人の中には、若い人もいると思うので、今の政治に不満を持つことも考えられますね」
 と、金田は言った。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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