連載
九州観光列車の旅
第七章「最後のカーチェイス」(最終回) 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 とにかく、事態は、はっきりした。
 犯人は、片山総理の後援会「山の会」の九人の幹部。
 片山総理には、二つの後援会があって「山の会」は、その一つ。もう一つの「鷹の羽会」は、青森の上流階級の集まりで、どちらかといえば、片山総理夫人、信江の後援会といった方がいい。
 最近、片山夫人の言動が、マスコミなどから、批判されるようになった。このままでいくと、その批判が、片山総理に及ぶだろうといわれるようになった。
 それを心配した「山の会」の幹部たちが、片山総理夫人の口を封じようとしたが、夫人の口を封じることができず、最後の手段をとった。
 片山総理夫人を消し、その犯人に、亀井刑事を仕立てあげようとしたのだ。
 この背後には、亀井刑事の十一歳の息子、健一を誘拐したグループがいて、この犯行計画を「山の会」に売ったに違いない。
 更に調べていくと、「山の会」の幹部九人の中に、亀井刑事と顔も背格好もよく似た男がいることが分かった。
 名前は和田秀介、年齢も亀井刑事と同じ四十五歳である。
 この男と他の幹部が、東京で、片山夫人を殺す時刻に、亀井刑事のアリバイを奪っておいたことは分かっている。そして、亀井刑事が、片山夫人殺しの容疑で、逮捕された。
 こうなれば、警視庁や現役の刑事に対する批判が、どんなものか、想像される。
 少しでも、亀井刑事を援護する言葉や行動は、全て嘘だと決めつけられた。
 警視庁も、批判を恐れて、十津川たちを、この事件の捜査から外し、地元警察署の品川署の小野警部たちに任せ、また、十津川が、小野警部と連絡することも禁止した。
 それでも、十津川と部下で、亀井刑事の同僚たちは、この事件の捜査を続けた。時には、その一人一人が休暇届を出し、個人として、捜査を続けた。
 その結果、分かったことが、いくつかある。
 亀井刑事のそっくりさんの和田秀介は、現在、行方不明である。
「山の会」の他の幹部たちの今回の事件に対する証言は、次のようなものだった。
「和田秀介が、警視庁の刑事だとは全く知らなかった。和田秀介が偽名で、本当は亀井定雄だということもである」
「彼が、片山夫人殺しの犯人だと知って、びっくりしている。よほど、片山夫人が片山総理の邪魔をしていると考えて、怒っていたのだろう」
「その気持ちが、八月十日に、片山夫人の指示で、ホテルで青森県人会のパーティーの準備をしていて、彼女の横暴ぶりに我慢しきれなくなって、殺してしまったのだろうと思いますね」
「彼は、同じ『山の会』の幹部ですが、プライベートについては、ほとんど知らないのです。ですから、彼の家族についても分かりません」
「もちろん、彼が、片山夫人を殺すなどとは、全く考えていませんし、とにかく、驚いています」
「山の会」の幹部たちは、亀井刑事が、和田秀介の偽名で「山の会」に入っていたと言っているが、これは嘘だろう。
 幹部の一人、和田秀介が、亀井刑事に、そっくりなことを利用して、片山夫人殺しを計画したとしか考えられない。
 つまり、和田秀介という男は、実在するのだ。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第七章「最後のカーチェイス」(最終回)
第六章「亀井救出の道」2
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第五章「二つの力」2
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第四章「別件逮捕」2
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第三章 特急いさぶろうと特急はやとの風2
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