連載
明治維新直前に死んだ男たち
第二章 十津川村と明治維新 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 その後、菅原が案内してくれたのは、天満屋の史跡と、ビルの角に建つ、小さな中井庄五郎の墓石だった。こちらのほうは、周りにビルが建っているので、町の中にひっそりと建っている感じだった。
 誰が手向けたのか、花束がいくつも置かれ、周辺はきれいに掃き清められていた。
「今日は、これから十津川村に行かれるのでしょう? それなら、このままご案内しますよ。十津川村は、交通の手段がありませんからね」
 と、菅原が、いった。
 十津川たちは、市内で昼食を取ってから、京都府警のパトカーで、十津川村まで案内してもらうことになった。
 交通が不便なことは、十津川もよく知っていた。十津川村は、紀伊半島の真ん中にあるので、北からは京都、奈良を通って五条まで行き、そこからタクシーに乗ると、二時間以上もかかってしまう。
 また、南の南紀白浜や新宮などから車に乗って北上しても、やはり同じように、二時間以上かかる。十津川村というのは、そうした距離にあるのである。
 最近になって、奈良の五条から新宮まで行く、日本で最も長距離で、最も時間のかかる定期バスが走るようになった。しかしそのバスを使えば、十津川村までは、さらに多くの時間がかかるだろう。
 たしかに、五条を出発してからは、山に分け入る感じの道路になった。バスもこの辺りは通っていないので、バスの姿はないし、車の姿もほとんどない。
「昔なら、間違いなく陸の孤島といわれていたでしょうね」
 と、菅原が、いった。
 十津川村まで車でも二時間以上かかる。その間、菅原警部が、十津川村のことを話してくれた。十津川は、もっぱら聞き役である。
「これは、何かの本で読んだのですが、今でも十津川村の人たちは、自分たちの先祖は、神武天皇を大和に道案内した八咫烏だと思っているそうですね。本当なんですか?」
 と、十津川が、聞いた。
 菅原は、笑って、
「そうですね、たとえ話なのでしょうが、本気で、八咫烏の子孫だと思っている村民もいますよ」
 と、いった。
「それから、十津川村というのは、山と谷と川ばかりで、平地がないので米が穫れない。それで、昔から税金が、免除されていたというのは本当ですか?」
 今度は、亀井刑事が、聞いた。
 村境にあるトンネルを抜けたところで、菅原がパトカーを停めた。そこには歌碑が建っていた。

「とんと十津川御赦免どころ年貢いらずのつくりどり」

 と、大きな字で書かれていた。その辺の事情を菅原が、説明してくれた。



 
〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第七章 若き志士と現代の若者たち(最終回)
第六章 『奇は貴なり』の終章2
第六章 『奇は貴なり』の終章
第五章 『奇は貴なり』の続きと事件2
第五章 『奇は貴なり』の続きと事件
第四章 小説『奇は貴なり』のつづき2
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第三章 奇は貴なり2
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第二章 十津川村と明治維新2
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第一章 中井庄五郎を知っていますか2
第一章 中井庄五郎を知っていますか