連載
明治維新直前に死んだ男たち
第二章 十津川村と明治維新2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「それを引き受けたのですね?」
「そうです。引き受けて成功しました」
「どうして引き受けたりしたんですかね?」
「そこまでは分かりませんが、たぶん、まだ二十歳前後だったと思うんですが、腕に自信があったし、おだてられたんじゃないですかね? 十津川郷士は天皇さんが好きで、つねに、王政復古を願っていましたから、そのためになることだといわれて、引き受けたのではないかと思うのです」
「そして成功した?」
「そうです。ただ単に殺しただけではありません。殺した村岡伊助の懐から、幕府方に通じている密書を手に入れたので、中井庄五郎は、そのお礼として、品川弥二郎から、刀二振りを贈られています」
「たしか、中井庄五郎は、坂本龍馬から刀をもらっていたのではありませんか?」
「そうです。坂本龍馬とも親しくなり、刀二振りをもらっています。その刀は、村役場の前にある記念館に飾られています」
「不思議に思うのですが、どうして、どちらからも刀をもらっているのですか?」
 と、十津川が、聞くと、亀井も、
「なぜ、坂本龍馬も長州藩も、刀を贈ったのでしょうか? だって、中井自身、もともと刀は、持っていたわけでしょう?」
 と、聞いた。
「その辺のところは、当時の人間ではないので分かりませんが、坂本龍馬にしても長州藩にしても、中井庄五郎には、刀が一番似合うと思ったのではありませんか」
 と、市橋が、いった。



 この後、二人は、村役場の前にある記念館に案内された。そこでの売り物は、何といっても、中井庄五郎が坂本龍馬からもらったという刀二振りである。
 その後、十津川たちは、中井庄五郎が生れたところにも案内してもらった。国道沿いのダムの近くに大きな石碑が建っていた。
「明治維新の志士 正五位 中井庄五郎生誕之地」
 と書かれている。
「今、中井庄五郎は、十津川村一番の有名人じゃありませんか?」
 と、十津川が、いった。
 市橋は、苦笑して、
「ほかにも十津川村出身の偉人が何人もいるんですが、中井庄五郎は、若者の間で圧倒的な人気がありますね」
 と、いった。
「ここには、勤皇の志士と書いてありますね。しかし、彼はあまりにも若くして死んでしまった。したがって、坂本龍馬とか、高杉晋作とか、あるいは西郷隆盛みたいに、明治維新に、貢献したという話は、ほとんど聞きませんね」
 十津川が、遠慮なく、いった。どうしても、中井庄五郎は、何者なのか、それを何とかして確認したかった。そのことが、どこかで、梶本文也の死とつながっているのではないかと、思ったからである。
「たしかに二十一歳で死んでいますが、波乱の一生ですよ。生き方も死に方も壮絶でしたから。坂本龍馬の仇を討とうとして、新撰組をつけ狙い、彼らの集まりに斬り込んでいって、それで死んでしまったんです」
「どうして、中井庄五郎は、坂本龍馬を斬ったのは新撰組だと思っていたのでしょうか?」
 と、十津川が聞いた。
「当時は、坂本龍馬を斬ったのは、新撰組だと、信じられていたからじゃないですかね」
 と、市橋が、いう。
「どうも、その辺が、違うんじゃないか。私は、思うんですが」
 と、十津川が、いったが、別に何の根拠があるわけでもなかった。



 
〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第七章 若き志士と現代の若者たち(最終回)
第六章 『奇は貴なり』の終章2
第六章 『奇は貴なり』の終章
第五章 『奇は貴なり』の続きと事件2
第五章 『奇は貴なり』の続きと事件
第四章 小説『奇は貴なり』のつづき2
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第三章 奇は貴なり2
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第二章 十津川村と明治維新2
第二章 十津川村と明治維新
第一章 中井庄五郎を知っていますか2
第一章 中井庄五郎を知っていますか