連載
明治維新直前に死んだ男たち
第二章 十津川村と明治維新2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 この後、十津川たちは、現在の十津川村を案内してもらった。改めて、その目で村の中を回ってみると、驚いたことに、十津川村は新しい事物でも、あふれていた。
 第一は、谷瀬のつり橋だろう。現在は、日本で第二位になってしまったが、かつては、日本第一の長さを誇るつり橋だった。
 長さ二九〇メートルのつり橋は今でも有名で、元来生活のための、つり橋なのだが、今は観光のつり橋になっている。そのためか、近くには、駐車場もあるし、休憩所もある。
 そのつり橋と反対に、真っ赤に塗られた最新式の陸橋もあった。そのほか、昔の人々は山の峰を伝っていったのだろうが、今では、近代的なトンネルが、各所に掘られていた。
 さらに、やたらに多いのが、水力発電所だった。一つ一つの規模は小さいが、村自体の高低の強さ、丘陵を使って各所に発電所が設けられていた。
 そして、温泉である。
「いってみれば、全て現代の象徴じゃありませんか」
 と、十津川は、感心して、いった。
 村役場に行って、村長に話すと、相手は、苦笑して、
「そうなんですが、東京や大阪、京都などからもっと早く、来られるようになれば、全て、観光資源になるのですがね」
 と、いった。
 十津川たちは、十津川温泉の中にあるホテルに、もう一泊することにした。
 相変わらず静かで、川の音しか聞こえてこない。並んで温泉に浸かりながら、亀井が、いった。
「中井庄五郎は、いったい何をやったのか、どんな人間だったのか、そこがよく分かりませんね」
「私も、それがぜひ知りたいんだ。わずか二十一歳で死んでいるから、経歴は短い。しかし、波瀾万丈の生涯だったと思うよ。若者に人気があるのも当然だろう。何しろ、やたらと強かったようだからね」
「しかし、京都にいたり、時々、郷里の十津川村に帰ってきたりしていたわけでしょう? そして京都では、那須盛馬という若い浪人と二人で酔っぱらって、京都の四条通りを歩いて、新撰組とケンカをした。そう教えられましたけどね。しかし、御所の守りをしていたわけでしょう? それなのに、酔っぱらって町を歩いていてケンカをするというのは、どういうことなのか、私には、よく分からないのですが」
 と、亀井が、いった。
「若くて血気盛んだったんだよ。その上、日本中が揺れていた。特に京都は、その中心だった。毎日のように斬り合いがあり、勤皇だ、佐幕だといって侍たちが争っていた。剣の達人で、しかも一〇代の若者が、そんな巷に放り出されたら、いったいどうするだろう? 何とか、その騒乱に自分も参加したい。そして、京都で腕をさらに磨きたい。そんな気持ちで御所の警備に当たっていない時は酔っぱらって歩いていたとしてもおかしくないと思う。何かをやろうとしても何をしたらいいのかが分からない。だから、ケンカもしたし、長州藩の品川弥二郎に頼まれて人殺しまで引き受けた。たぶん、鬱々としたものが中井庄五郎の若い体に流れていたんだと思うね」
 と、十津川が、いった。



 
〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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