連載
明治維新直前に死んだ男たち
第二章 十津川村と明治維新2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「そうですね。今の若い人たちは、十津川郷士たちの明治維新を考えると、坂本龍馬と、彼と仲がよかったといわれる中井庄五郎の名前を出しますからね」
「しかし、中井庄五郎は、坂本龍馬に可愛がられていて、刀二振りを贈られたわけでしょう? しかし、中井庄五郎は、坂本龍馬のためになにをしたんですかね」
 と、十津川が、再度、質問した。どうしても、そこが分からないのだ。
 市橋は、少し考えてから、
「私はたぶん、坂本龍馬のガード役をやっていたのではないかと思うのです」
 と、いった。
「ガード役ですか?」
「そうです。坂本龍馬の場合は、同じ土佐藩の岡田以蔵が有名ですが、私は、中井庄五郎だったと思っているのです。庄五郎は坂本龍馬のことを尊敬していた。だから、自分を犠牲にしてもいいと考えて、坂本龍馬の護衛をしていたのではないか。実際に、龍馬を援けたことがあって、龍馬は、感謝を込めて、彼に刀を贈ったのだと思いますね。たぶん、今後もこの刀で私を守ってくれ。そういったのではないかと、思うのです」
「ほかにも坂本龍馬の護衛をしていたという証拠はありますか?」
「坂本龍馬は池田屋で殺されるんですけど、その時、有名な話として、犯人が十津川の者ですといったので、龍馬は安心して犯人を二階に上げたといわれていますが、冷静に考えてみると、坂本龍馬は、いつも命を狙われていたわけですよね? だから、十津川村の者ですといっただけで、安心して二階に通すものでしょうか? 逆に警戒するんじゃないかと思うんですけど」
「そうすると、十津川の者ですといったので、それで安心して、龍馬が犯人を二階に上げたというのは間違いというわけですか?」
「そうです。たぶん、十津川の庄五郎ですといったんじゃないですかね。だから、犯人は中井庄五郎が坂本龍馬の護衛をしていることを知っていた。また、一方、坂本龍馬は、自分を護衛してくれている庄五郎に感謝して刀を贈ったような人間ですから、十津川村の者ですというだけでは信用しなかった。十津川村の中井庄五郎ですという言葉で完全に安心して二階に上げたのではないかと思うのです」
「しかし、私が聞いている話の範囲では、犯人は、十津川の者ですとだけしかいっていなかったと、そう聞いていますが」
「いや、私は、今もいったように中井庄五郎と名乗ったんだと思うのです。だから信用した。しかし、そのことに中井庄五郎自身は、激怒したんじゃないかと思うのです。自分の名前が龍馬殺しに使われたということで、だから、ほかの人達は、遠慮して、犯人は、十津川の者ですとしかいわなかったと証言したのだと考えます。庄五郎は、また、自分の名前が使われたことに腹を立て、仇を討とうとして、新撰組をつけ狙ったのです」
 と、市橋が、いった。
 十津川は、じっと、聞いていたが、
「中井庄五郎は、本当に、坂本龍馬を殺したのは、新撰組だと信じていたんでしょうか?」
 と。聞いた。

(つづく)



〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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