連載
明治維新直前に死んだ男たち
第三章 奇は貴なり 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 十津川はもう一日、十津川村が自慢の温泉付きのホテルに泊まることにした。十津川村は、昔こそ陸の孤島のようにいわれていたが、最近は、ぽつぽつと、観光客も訪ねてきているらしい。
 一番の難関は、交通手段がないことだが、最近、奈良県の五条から和歌山の新宮まで走る、日本で一番長い定期バスが、運行するようになった。このバスが十津川村を通るので、観光に役立つようになったということもあるだろう。
 翌朝、十津川が、亀井と二人、食堂に出ていくと、数人の若者が食事をしていた。東京から来たという若者たちだった。これから車で南紀白浜に出て、その後、東京に、帰るのだといった。少しずつ観光客が増えているということだろう。
 十津川には、この村で、行ってみたいところがいくつかあった。その一つが、中井庄五郎の記念碑である。ホテルの人にその場所を聞いた。風屋ダムというのがあり、その近くだという。
 十津川は、村営バスに乗って、その場所まで、送ってもらうことにした。
 十津川は、この村に来てから、初めて分かったことがいくつかあった。たしかに、平地が少ない。だが、その代り、山と谷と急流が多い。その急流を使っての発電施設が多いことがその一つだった。
 十津川村の地形を利用した発電である。
 もう一つは、歴史の記念碑が、多いことである。こちらのほうは、年代が二つに分かれていて、一つは南北朝の頃の記念碑である。十津川村の人たちは、最後まで南朝に味方して、後醍醐天皇と護良親王のために働き、結果的に敗れている。
 もう一つは、明治維新の時の記念碑である。この時も十津川村の人たちは終始、勤皇方に味方し、最後まで戦った。その記念碑が、村の至るところに、設けられているのだ。
 中井庄五郎の記念碑もその一つだと教えられ、風屋ダムの近くにあると教えられて、十津川は、亀井と二人でそこに向った。
 風屋ダムに溜まった水を発電所まで運ぶための水路が作られている。巨大な円筒形の水路橋であった。直径4・2メートルの橋の見える場所に、昔ながらの小さな集落がある。そこが、中井庄五郎が、生まれた村だった。
 案内してくれた人が、
「今も昔と同じ小さな村ですよ」
 と、いった。
 その小さな村に、大きな記念碑が建っている。中井庄五郎生誕の地の碑である。十津川は、その記念碑に、書かれた文字を読んだ。

 明治維新の志士、正五位中井庄五郎生誕の碑
 中井庄五郎は幕末に、ここ十津川に生まれた居合の達人であった。
 若くして京都御所の守衛にあたり、多くの志士と交わる。
 坂本龍馬と親交があり、龍馬が暗殺されるや、その仇を取らんとして天満屋にいた新撰組に斬り込み、そこで果てた。時に二一歳であった。

 これが四行で書かれている。



 
〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第三章 奇は貴なり2
第三章 奇は貴なり
第二章 十津川村と明治維新2
第二章 十津川村と明治維新
第一章 中井庄五郎を知っていますか2
第一章 中井庄五郎を知っていますか