連載
明治維新直前に死んだ男たち
第三章 奇は貴なり2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 翌日、十津川と亀井は、新宮発の長距離定期バスに乗って、五条に向かった。五条からは別のバスで京都に入るつもりである。
 十津川村に別れを告げる際、十津川は、十津川村警察署に行き、署長に、盗まれた剣の事件について聞いてみた。
 署長が、答えた。
「中井庄五郎が、品川弥二郎に暗殺を頼まれ、それに成功したので長州藩侯から贈られた剣二振り、これを用意しました」
「見つかったのですか?」
 と。十津川が聞くと、署長は笑った。
「いや、見つかっていませんよ。それと称する剣を用意して、犯人を欺して、坂本龍馬の剣を取り返そうと思っているんです。犯人が、どう応じてくるか、それが、心配ですがね」
 と、いった。
 その後、京都に入ると、二人は、まず、京都の霊山記念館を訪ねた。
 そこで、知りたかったのは、坂本龍馬が殺されたあとの中井庄五郎の行動だった。
 庄五郎は、犯人は、新撰組と考え、付け狙っていたが、同じ慶応三年一二月七日、新撰組が、京都の天満屋に集まっているのを知って、陸奥宗光たちと、斬り込んだが、彼自身も死んでしまった。
 犯人を新撰組と考えていたという説のほかに、もう一つ、紀州藩の藩士三浦休太郎だという説もあると知らされた。
 坂本龍馬が、長崎で亀山社中という会社をつくり、いろは丸という船を使って、交易をしていたとき、紀州藩の船と衝突沈没してしまったが、その賠償について、坂本龍馬は、紀州藩と巧妙に立ち廻り、七百万両という多額の賠償金を手に入れたのだが、その時、紀州藩の代表が三浦休太郎だった。彼はこのことを恨みに思って、坂本龍馬を、暗殺したというのである。
 これは、あながち、架空の話ではなく、三浦休太郎は、復讐を恐れて、新撰組に身辺警護を頼んでいたし、一二月七日も、天満屋に、三浦休太郎は、新撰組と一緒にいたといわれている。
 従って、想像を逞しくすれば、中井庄五郎は、新撰組を龍馬の仇として、天満屋に斬り込んだのか、それとも、新撰組に守られている三浦休太郎を狙って、天満屋に斬り込んだのかもしれないのである。
 このとき、中井庄五郎と一緒に、天満屋に斬り込んだものの名前は、次の通りである。

 陸奥宗光
 岩村誠一郎
 関 雄之助
 斉原治一郎
 本川安太郎
 山崎喜都真
 松島和助
 藤沢潤之助
 竹野虎太
 竹中与一
 前岡力雄
 宮地 某
 中井庄五郎

 この中で、十津川が知っているのは、中井庄五郎以外では、陸奥宗光だけである。
 と、すれば、他の人たちは、歴史に出て来ないほど、若い人たちなのだろうか。
 陸奥宗光は、当時の海援隊の一人だというから、その多くが、坂本龍馬の作った海援隊の隊士なのかもしれない。



 
〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章 『奇は貴なり』の終章2
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第五章 『奇は貴なり』の続きと事件2
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第三章 奇は貴なり2
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第二章 十津川村と明治維新2
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第一章 中井庄五郎を知っていますか2
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