連載
明治維新直前に死んだ男たち
第四章 小説『奇は貴なり』のつづき 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 盛馬は、驚いて、
「どうしたんだ?」
 と、きくと、庄五郎は、、
「おれは、おれは──」
 と、どもってから、
「嬉しいんだよ。分かるか。嬉しいんだ」
「何がだ?」
「上京すれば、新撰組に会えるんだろう? 連中は、そんなに強いのか?」
「強い」
「どんなに強い?」
「京都三条の池田屋旅館に、尊攘派の志士三〇名が集まっているところへ、新撰組が斬り込んで、七名を斬り、五名を捕えた」
「新撰組は、何人だ?」
 庄五郎は、眼をキラキラさせて、きく。
「それが、大事なことか?」
「おれにとっては、大事だ」
「はじめは、近藤勇や沖田総司たち五人で斬り込んだといわれている」
「そうか。五人か。五人と三〇人か」
 庄五郎は、嬉しそうに、いう。
「近藤勇は、五人で三〇人を制圧しているところへ、土方歳三の率いる別働隊一四人が駆けつけて、一方的に七人を殺し、五人を捕まえたんだ。一方的な戦いだったらしい」
「近藤勇は、そんなに強いのか?」
「新撰組隊長だ。天然理心流だ」
「聞いたことがないな」
「近藤勇自身が編み出した流派だともいわれている。実戦派らしい」
「近藤勇と一緒に斬り込んだ沖田総司は?」
「新撰組の若手では、第一の使い手と評判だ」
「若手第一? いくつだ?」
「確か、池田屋へ斬り込んだ時が十九歳だと聞いている」
「十九歳か。いいねえ。十九歳ね」
「なぜ、そんなに嬉しいんだ?」
「他に、強い隊士はいるのか?」
「腕に自信の浪人たちの集まりが新撰組だから、みんな強いだろう」
「中でも飛び抜けて強い奴を、教えてくれ」
「特別にか。今いった近藤勇、土方歳三、沖田総司の他に、強いと噂されるのは、斉藤一、永倉新八かな」
「詳しいな」
「今、おれたち勤皇の士にとって、京都で怖いのは、京都所司代でも、会津でもなくて、新撰組なんだ。奴らは、群れを作って、京都の市中を歩き回り、志士を見れば、いきなり斬りつけてくるからな」
「近藤勇、土方歳三、沖田総司、斉藤一、永倉新八か。覚えたぞ。すぐ京都に行こう」
「まるで、好きな女に会いたいみたいだな」
「ああ、連中に会いたいよ。会って、剣先を交わしてみたい」
「殺されるかもしれないぞ」
「いや、おれの居合の剣先をかわせるかどうか。それを試してみたいんだ」
 庄五郎は、自分が殺されることなど、微塵も考えていなかった。つばめさえ、かわせなかったのだ。人間にかわせるはずがないと、庄五郎は思っている。
「朝になると、邪魔が入るかもしれん。夜のうちに出発しよう」
 と、庄五郎が、いった。
 二人は、その夜のうちに、あわただしく十津川郷を出立した。
 上平主税たちが、京都御所の警護に励んだため、市中に十津川郷の屯所を設けることが許されていた。
 京都に着いた二人は、その屯所にもぐり込んだ。十津川郷の京都での責任者、上平主税には届けていない。



 
〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
Back number
第六章 『奇は貴なり』の終章2
第六章 『奇は貴なり』の終章
第五章 『奇は貴なり』の続きと事件2
第五章 『奇は貴なり』の続きと事件
第四章 小説『奇は貴なり』のつづき2
第四章 小説『奇は貴なり』のつづき
第三章 奇は貴なり2
第三章 奇は貴なり
第二章 十津川村と明治維新2
第二章 十津川村と明治維新
第一章 中井庄五郎を知っていますか2
第一章 中井庄五郎を知っていますか