盛馬は、驚いて、 「どうしたんだ?」 と、きくと、庄五郎は、、 「おれは、おれは──」 と、どもってから、 「嬉しいんだよ。分かるか。嬉しいんだ」 「何がだ?」 「上京すれば、新撰組に会えるんだろう? 連中は、そんなに強いのか?」 「強い」 「どんなに強い?」 「京都三条の池田屋旅館に、尊攘派の志士三〇名が集まっているところへ、新撰組が斬り込んで、七名を斬り、五名を捕えた」 「新撰組は、何人だ?」 庄五郎は、眼をキラキラさせて、きく。 「それが、大事なことか?」 「おれにとっては、大事だ」 「はじめは、近藤勇や沖田総司たち五人で斬り込んだといわれている」 「そうか。五人か。五人と三〇人か」 庄五郎は、嬉しそうに、いう。 「近藤勇は、五人で三〇人を制圧しているところへ、土方歳三の率いる別働隊一四人が駆けつけて、一方的に七人を殺し、五人を捕まえたんだ。一方的な戦いだったらしい」 「近藤勇は、そんなに強いのか?」 「新撰組隊長だ。天然理心流だ」 「聞いたことがないな」 「近藤勇自身が編み出した流派だともいわれている。実戦派らしい」 「近藤勇と一緒に斬り込んだ沖田総司は?」 「新撰組の若手では、第一の使い手と評判だ」 「若手第一? いくつだ?」 「確か、池田屋へ斬り込んだ時が十九歳だと聞いている」 「十九歳か。いいねえ。十九歳ね」 「なぜ、そんなに嬉しいんだ?」 「他に、強い隊士はいるのか?」 「腕に自信の浪人たちの集まりが新撰組だから、みんな強いだろう」 「中でも飛び抜けて強い奴を、教えてくれ」 「特別にか。今いった近藤勇、土方歳三、沖田総司の他に、強いと噂されるのは、斉藤一、永倉新八かな」 「詳しいな」 「今、おれたち勤皇の士にとって、京都で怖いのは、京都所司代でも、会津でもなくて、新撰組なんだ。奴らは、群れを作って、京都の市中を歩き回り、志士を見れば、いきなり斬りつけてくるからな」 「近藤勇、土方歳三、沖田総司、斉藤一、永倉新八か。覚えたぞ。すぐ京都に行こう」 「まるで、好きな女に会いたいみたいだな」 「ああ、連中に会いたいよ。会って、剣先を交わしてみたい」 「殺されるかもしれないぞ」 「いや、おれの居合の剣先をかわせるかどうか。それを試してみたいんだ」 庄五郎は、自分が殺されることなど、微塵も考えていなかった。つばめさえ、かわせなかったのだ。人間にかわせるはずがないと、庄五郎は思っている。 「朝になると、邪魔が入るかもしれん。夜のうちに出発しよう」 と、庄五郎が、いった。 二人は、その夜のうちに、あわただしく十津川郷を出立した。 上平主税たちが、京都御所の警護に励んだため、市中に十津川郷の屯所を設けることが許されていた。 京都に着いた二人は、その屯所にもぐり込んだ。十津川郷の京都での責任者、上平主税には届けていない。