連載
明治維新直前に死んだ男たち
第五章「『奇は貴なり』の続きと事件」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 間を置かずに、階段を駈け上がる音が聞こえて、障子を蹴破って、若い二人の新撰組の組員が、部屋に飛び込んできた。
 その二人に向って、龍馬が拳銃を撃った。
 二人がひるむ。が、弾丸は当たらない。
 龍馬が、窓から屋根に飛び移る。
 それを追おうとする二人の組員の前に、庄五郎が立ちふさがった。
 二人の組員が、斬りつけてくる。
(未熟だな)
 と、感じ、庄五郎は、まず片方の組員を無造作に斬り下げた。
 今日は遠慮なく、骨まで斬る。
 たちまち、二人の利き腕が斬り捨てられ、悲鳴を上げて倒れる。
 庄五郎は、ゆっくりと屋根に飛び移った。
 龍馬は、すでに遠くまで逃げたと思ったのだが、近くの屋根瓦に腰を下ろしていた。
「逃げないのですか?」
 と、聞くと、
「今日の新撰組は偵察で、本隊は動いていないらしい。あの二人は、どうした?」
「斬り伏せました」
「そうか」
「拳銃はあまり当たりませんね」
「分かったのは、拳銃の有効距離は三尺以内ということだ」
 と、龍馬は、弁明してから、
「今日、二人斬って、気分はどうだ?」
「意外に爽快です」
 嘘ではなかった。
「それで、君の仕事は決まった。知人や友人に、君のことを話しておく。次の仕事が来ることになる」
「どんな仕事ですか?」
「少なくとも剣を使う仕事だということは、保証するよ」
 と、龍馬は、微笑した。
(不思議な笑い方だな)
 と、庄五郎は、思った。
 龍馬には、今日を入れて三回しか会っていないのだが、庄五郎の知る龍馬は、黙って考え込んでいるか、哄笑しているかのどちらかだったからである。
 その後三日間、何の音沙汰もなかった。
 龍馬の姿も消えた。薩長同盟のことで、中岡慎太郎と一緒に長州に行っているという噂があったが、真偽は定かではない。
 四日目。
 近江屋に泊まっていた庄五郎は、一通の封書を受け取った。

「十津川郷士 中井庄五郎様」

 と、表に書かれている。
 今朝、女将さんが起きて、雨戸を開けようとした時、挟まっている封書を見つけたのだという。
 裏には、(龍)の印があった。

 庄五郎は、部屋に戻って、中身を読むことにした。



〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
Back number
第七章 若き志士と現代の若者たち(最終回)
第六章 『奇は貴なり』の終章2
第六章 『奇は貴なり』の終章
第五章 『奇は貴なり』の続きと事件2
第五章 『奇は貴なり』の続きと事件
第四章 小説『奇は貴なり』のつづき2
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第三章 奇は貴なり2
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第二章 十津川村と明治維新2
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第一章 中井庄五郎を知っていますか2
第一章 中井庄五郎を知っていますか