連載
明治維新直前に死んだ男たち
第五章「『奇は貴なり』の続きと事件」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 可哀そうではなく、面白くないのだ。剣の相手ではない者と戦うのは、どうにも詰らない。
 それでも、相手の前に立ちふさがって、
「公卿の水城由実か?」
 と、聞く。
 相手は、黙って首を横に振る。
「笠を取れ」
 と、手を伸ばした瞬間だった。
 眼の前が、ぴかりと光った。庄五郎が、反射的に飛び退がった。が、光は、執拗に追いかけてくる。
 庄五郎は、更に大きく飛んだ。相手との間に、すき間が出来た時、思わずホッとした。
「小太刀を使うのか」
 返事はない。
 が、庄五郎は、無性に嬉しくなった。
「いいぞ」
 と、叫ぶ。
「小太刀は初めてだ。いいぞ、いいぞ」
 まるで子供のように、はしゃいでいた。初めて小太刀の使い手に会ったのだ。しかも、かなりの使い手だ。
「私を殺すのか」
 水城由実は、声をとがらせ、斬りかかってくる。
「惜しいぞ」
 と、叫びながら、庄五郎は、一刀のもとに斬り伏せた。
 倒れて動かぬ相手に近づいた時、袂から白い封書がのぞいているのに気がついた。手に取った。

「岩倉具視様」

 とあり、裏には、

「一」

 とだけ書いてあった。
 岩倉具視は、公卿の筆頭である。
 庄五郎は、中身には興味がなかったので、そのまま龍馬に渡した。
「報償金は、すでに貰っています」
 と、いうと、龍馬は、黙って書状を読んでいたが、
「君は、この中身に目を通したのか?」
「興味がないので、読んでいません」
「そうか」



 
〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第七章 若き志士と現代の若者たち(最終回)
第六章 『奇は貴なり』の終章2
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第五章 『奇は貴なり』の続きと事件2
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第四章 小説『奇は貴なり』のつづき2
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第三章 奇は貴なり2
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第二章 十津川村と明治維新2
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第一章 中井庄五郎を知っていますか2
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