連載
明治維新直前に死んだ男たち
第五章「『奇は貴なり』の続きと事件」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 まず村長に会って、知らせてくれたお礼をいった。
「犯人が、自首してきたそうですね?」
「そうなんです。意外でした。それも、二十一歳ですから、そのことにもびっくりしました」
「中井庄五郎が死んだのが、確か二十一歳でしたね」
「どうやら犯人も、それは意識しているみたいです」
 と、村長が、いう。
「今、十津川警察署ですか?」
「そうです。これから一緒に行きましょう。私も、犯人が何をいうのか興味がありますから」
 と、村長が、いう。
 村長の車で、十津川と亀井は、十津川警察署に向った。
 犯人に会った。
 名前は青山京次。二十一歳。
 持っていた運転免許証には、そうあった。
 長身の若者である。
 署長は、十津川に向って、
「あなた以外の人間には、何も話す気は無いと頑固なので、わざわざ来て頂いて、恐縮です」
 その犯人は、十津川にしか話したくないと主張するので、取調室で二人だけになった。
「調べたが、君には前科は無かった。そんな若者が、何故、中井庄五郎の刀を盗むようなことをしたんだ?」
 十津川が、まず聞いたのは、そのことだった。
「刀は、返しましたよ」
「それは知っているが、返したからいいというもんじゃないだろう」
「私は、中井庄五郎のファンです。彼のように生きたいと思っています」
「ファンなら、彼の刀を盗むなんてことはしない筈だろう?」
「ファンだから盗んだのです」
「よく分からないが」
「中井庄五郎は、暗殺された坂本龍馬の仇を討とうとして、新撰組の集まっていた天満屋に斬り込んでいき、二十一歳で亡くなっています。その時に、庄五郎が使った刀は、坂本龍馬に貰ったものでなくてはおかしいと、私は思ったんです。龍馬の仇を討つんなら、誰が考えたって、龍馬に貰った刀を使うでしょう。それなのに、その刀は使われずに飾られています。おかしいと思うのが当然でしょう。だから、ニセモノだと思ったんですよ。それで、調べてみようと思って盗んだのです」
「何か分かったのか?」
「調べて貰ったら、坂本龍馬の手紙にあった、青江吉次だと分かった。だから、返却したんです。それだけのことです」
 青山は、呑気に、いった。
 十津川は、その呑気さに苦笑しながら、
「それで、君の結論は、どうなったんだ?」
 と、聞いてみた。



 
〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第七章 若き志士と現代の若者たち(最終回)
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第二章 十津川村と明治維新2
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