連載
明治維新直前に死んだ男たち
第五章「『奇は貴なり』の続きと事件」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「中井庄五郎が、坂本龍馬の仇を討とうとした時、龍馬に貰った刀を使ったことは、間違いないと分かっています。したがって結論は、龍馬から何本も刀を貰っていたということです」
「どうして、中井庄五郎は、坂本龍馬から何本も刀を貰っていたと、君は思うんだ?」
「時代ですよ。現代の私たちは、当時の英雄たちが、一本の名刀を大事に持っていたと考えますが、それは間違いです。幕末には、一日に何人もの人間が斬られています。斬られなくても、刀がぶつかれば刃こぼれがする。そんな世情の中でも、中井庄五郎は、たくさんの刀を持っていた。坂本龍馬からも、少なくとも三本以上の刀を貰っています。とすれば、二人は、ただの関係じゃない筈です。私が考えたのは、中井庄五郎が、龍馬の護衛をやっていたんじゃないかということです。龍馬には敵が多かった。薩長同盟の根廻しに成功して、明治維新の推進者と呼ばれていますが、その薩摩や長州からさえも、命を狙われていたと思うのです。だから、護衛役は大変だったと思いますね。居合の名人ですが、龍馬の身辺警護となれば、刀を抜かずに、相手を威圧するわけにもいかないと思うのです。だから、斬り合いも日常茶飯事だったと思うのです。そんな凄まじい仕事に対する礼として、龍馬は、何本もの刀を贈ったのではないかと思いますね」
「君と同じように考えた人がいるんだよ」
 と、十津川が、いった。
「そうですか」
「ところが、君の所持品を調べていたら、その中に、これがあった」
 十津川は、一枚の会員証を相手に見せながら、
「これには『アマチュア歴史研究会』とあるね。君は、そこの会員なんだ?」
「歴史好きの集まりです」
「全部で、何人くらいの会員がいるの?」
「東京中心で、意外と少ないのです。全部で二十六人かな」
「四月二七日に、会員の一人が、東京・三鷹の自宅マンションで殺された。名前は、梶本文也、三十五歳。サラリーマン。彼と親しかったのかね?」
 十津川の言葉で、青山が、少し顔色を変えた。
「警部さんは、あの事件の捜査に、わざわざ十津川村まで来られたのですか?」
 と、非難するように、十津川の顔を見た。
「殺された梶本文也さんが、十津川郷士の中井庄五郎に関心を持っていたことが分かったんでね。私自身は、恥ずかしいが、中井庄五郎のことも知らなかったので、今、勉強中だよ」
「つまり、私も容疑者の一人だということですか?」
 青山は、ちょっと笑った。
「中井庄五郎に関心を持ったアマチュアの歴史研究家が、何人かいた。だが、中井庄五郎に対するアプローチは、少しずつ違っていた。それが次第に大きくなって、遂には殺し合いになった。そんなところかね?」
「中井庄五郎のことを書いた本が出るというのは、本当ですか?」
 間を置いて、青山が、聞いた。



 
〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第二章 十津川村と明治維新2
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第一章 中井庄五郎を知っていますか2
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