連載
明治維新直前に死んだ男たち
第五章「『奇は貴なり』の続きと事件」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「まもなく出版される。塚本文也と木下恵の共著になっている。塚本文也というのは、梶本文也のペンネームだろう。君は、梶本文也のことを知っているといった。木下恵のことは、どうだ? 知っているんだろう?」
「どうですかね」
 青山は、あいまいな返事をした。
(どうやら、中井庄五郎のことを書いた本が出るのが、ショックだったらしい)
 と、十津川は、感じた。
 青山京次の訊問が終わると、十津川は、東京の青山にあるアマチュアの「歴史研究会」に電話した。
 梶本文也と木下恵、そして、青山京次について聞いてみた。
 研究会の事務局の答えは、こうだった。
「梶本文也は、今も会員名簿に名前を残している。研究会では、塚本文也のペンネームを使っていることが多かった。
 研究会の中で、最近、数人が中井庄五郎の研究をしていることは、よく分かっていた。二十一歳の青山京次も、その一人だが、全員が仲良く中井庄五郎について研究しあっていたかどうかは分からない。
 研究会の人間は、おれが、おれがという、自分中心の性格の若者が多いので、合同研究は難しい感じだった。その中で、今回、梶本文也と木下恵の共著で、中井庄五郎を主人公にした本が出ることには、非常に驚いている。
 木下恵という名前は、歴史研究会の会員名簿の中には見つからない。
 ただ、一年前まで、会員の中に平松愛という女性の会員がいたが、突然、消息不明になり、会合に来なくなっている。当時二十九歳。独創的な歴史観を持っていた。一応、彼女の写真を送る」

【つづく】



〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第七章 若き志士と現代の若者たち(最終回)
第六章 『奇は貴なり』の終章2
第六章 『奇は貴なり』の終章
第五章 『奇は貴なり』の続きと事件2
第五章 『奇は貴なり』の続きと事件
第四章 小説『奇は貴なり』のつづき2
第四章 小説『奇は貴なり』のつづき
第三章 奇は貴なり2
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第二章 十津川村と明治維新2
第二章 十津川村と明治維新
第一章 中井庄五郎を知っていますか2
第一章 中井庄五郎を知っていますか