連載
明治維新直前に死んだ男たち
第七章 若き志士と現代の若者たち(最終回) 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 十津川の携帯に、若い女の声で連絡が入った。
 彼が待っていた木下恵からだった。今もっとも会いたかった相手である。
「とにかく、あなたに会って、聞きたいことがあるんですよ」
 と、十津川は、相手に向って、いった。
「私も、警部さんに、聞いて頂きたいことがあって電話したんです」
 と、恵も、いった。
「それを聞いて、ほっとしました」
 十津川は、正直にいい、会う場所と日時を決めた。
 一人で会いたいというので、十津川は、亀井とわかれて京都に戻り、駅前のNホテルのロビーで会った。
「塚本文也さんと一緒に書かれた本を拝見しましたよ」
 と、まず、十津川が、いった。
「なかなか面白かった。中井庄五郎について、お二人でよく調べられましたね」
「本当は、二人だけじゃないのです」
 木下恵が、意外なことを口にした。
「それは、他に協力者が、何人かいたということですか?」
 と、十津川は、きいた。
 よく、本の末尾に智慧や資料を貸して頂いた方々の名前を並べて、感謝の言葉が書かれていることがあるのだが、今回の本には、それは無かった筈である。
「協力者かどうか分かりません。塚本はペンネームですから、梶本文也を殺した犯人かもしれませんから」
 と、恵は、いう。
「もっと分かるように話してくれませんか」
「全部で五人いたんです。私は、高校時代から歴史、特に、日本史の幕末時代が好きでした。その時代の本や資料を見ているうちに、一人の無名な、二十一歳で死んだ若い郷士に興味を持つようになりました。それが、十津川郷士の中井庄五郎でした。時々、顔を出していた歴史研究会に出た時、中井庄五郎のことを喋ったら、庄五郎に関心があるという人間が他にも四人いて、これからは、五人だけで時々集まって、中井庄五郎の話をしよう。彼について、何か分かったら、その時に発表しようということになったんです。一年以上前のことです」
「その中に、梶本文也さんもいたわけですね?」
「そうです。ただ、彼は、勤めていた会社がうるさいので、梶本ではなくて塚本といっていました」
「他の三人の名前も教えてください」
「青山京次さん」
「その男なら、現在、逮捕され留置されています。十津川村の歴史民俗資料館に飾ってあった坂本龍馬から中井庄五郎に贈られた刀二振りを盗んだ容疑です」
 十津川が、いうと、恵も肯いて、
「彼も五人のうちの一人です」
「他には?」
「近藤信さんと、池野英文さん。どちらも二十代で、私以上に中井庄五郎の熱烈なファンです」
 と、恵は、いった。



 
〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第七章 若き志士と現代の若者たち(最終回)
第六章 『奇は貴なり』の終章2
第六章 『奇は貴なり』の終章
第五章 『奇は貴なり』の続きと事件2
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第四章 小説『奇は貴なり』のつづき2
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第三章 奇は貴なり2
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第二章 十津川村と明治維新2
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第一章 中井庄五郎を知っていますか2
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