よみもの・連載

御茶ノ水署シリーズ

地獄への近道

逢坂 剛Gou Ousaka

 キャストのトップに、まず二人の新人の名前が出たところをみれば、キャグニーの力の入れ方も、それなりにうかがわれた。
 映画はまず、主人公の殺し屋カイルが、猫をいじめた下宿屋の娘を突き飛ばし、部屋から追い出すシーンで始まる。
 ロバート・アイヴァース演じるカイルは、細おもての神経質そうな若者で、殺し屋には見えないところが、みそといえばみそのようだ。
 スーツにコート、ソフト帽という勤め人の格好で、カイルは市の土木局長の事務室に、出向いて行く。
 局長は女秘書と、仕事の話をしている。
 控室にはいったカイルは、ボールペンでも扱うように拳銃を取り出し、くるくるとタオルを巻きつけるなり、事務室にはいって二人を射殺する。
 その一連の動きが、まるでぶらりとスタンドに立ち寄り、コーヒーを飲んだだけというくらい、無造作なタッチで描写される。
 これには梢田も、のっけから驚かされた。ふつうならスリルとサスペンスを盛り上げるため、もっと派手な処理をするところだ。
 仕事をすませたカイルは、指定されたレストランに行って、黒幕に雇われた太っちょの男から、謝礼金を受け取る。
 カイルは、その金で下宿屋の娘に部屋代を払い、娘はそれを銀行に預けに行く。
 ところが、銀行の窓口にはすでに警察署から、強盗事件で奪われた紙幣の番号が、回っていた。窓口係は、その控えと娘の紙幣を照らし合わせ、一致したためすぐに通報する。
 つまり太っちょは、カイルにわざと不正な金をつかませ、逮捕されるように仕向けたわけだ。
 通報を受けた刑事は、すぐに娘を案内に立てて、下宿屋へ急行する。
 ここで、カイルは逮捕を逃れるために、娘を人質にするなどして、いろいろ立ち回ったあげく、かろうじて脱出に成功する。
 それから、カイルは警察の捜査網をくぐって、自分を罠にかけた太っちょをつかまえ、決着をつけようと追跡を開始する。
 そのために乗った列車で、カイルは隣にすわった刑事の婚約者、グローリーと口をきくようになる。そのいきさつとやりとりが、二人の陰と陽のキャラクターを活写して、なかなかおもしろい。
 結局、列車にも手が回ったことが分かり、カイルはグローリーを人質にして、工場の中へ逃げ込む。
 その過程で、グローリーがカイルに投降するよう、いろいろと説得するのだが、カイルはいっさい耳を貸そうとしない。この前後の、グローリーを演じるジョージアン・ジョンスンは、舌を巻くほどうまい芝居を見せる。
 グローリーの婚約者は、それなりにキャリアのある男優だろうが、この映画ではただの狂言回しの刑事、という感じで処理される。
 最後は予想どおり、カイルが太っちょとその黒幕を片付け、警察の銃弾に倒れるわけだが、キャグニーの演出は終始感傷を交えず、ハードボイルドに話を締めくくる。
 映画が終わると、期せずして狭い室内に、新たな拍手がわいた。

プロフィール

逢坂 剛(おうさか・ごう) 1943年東京生まれ。80年「暗殺者グラナダに死す」で第19回オール讀物推理小説新人賞を受賞。86年に刊行した『カディスの赤い星』で第96回直木賞、第40回日本推理作家協会賞、第5回日本冒険小説協会大賞をトリプル受賞。2014年、第17回日本ミステリー文学大賞を受賞。15年『平蔵狩り』で第49回吉川英治文学賞を受賞。「百舌」シリーズ、「御茶ノ水署」シリーズほか著書多数。

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