よみもの・連載

『パラ・スター』著者・阿部暁子×車いすテニス・大谷桃子選手 対談

■選手と一心同体・エンジニアの存在

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作中ではサポートする人たち、とくに選手を支える車いすメーカーのエンジニアの存在が興味深かったです。阿部さんがエンジニア側にも焦点を当てた理由を聞かせてください。
阿部
最初に言ったように、「競技ごとの車いすを作っている人がいるのか、すごいな」というところからスタートした作品で。当初は車いすを作る人だけを書く可能性もありました。でも、車いすテニスを正しく知ってもらうためには、車いすを作っている人、そして車いすテニスに励んでいる選手を両方書いて初めてちゃんとわかってもらえるのでは、という感触があって。それでこのような形の話になりました。
──
大谷選手とエンジニアの方々の関係はどんな感じですか?
大谷
私はなんでも言わせてもらっています。それこそ自分が遠慮して、「車いすのここをこうしたい」という希望を言わず、それで結果が出なければもっと申し訳ないことになってしまうので……。とはいえ、1年目とかは担当の方のことも、自分の身体のこともまだ理解していなくて、与えられたものに乗る、という感覚のほうが強かったかもしれないです。
阿部
車いすは身体の一部だから、状態を伝えるのって難しいですよね。
大谷
難しいですね。車いすの構造をきちんと理解している選手は「ここを数ミリ長くしたほうがいいんじゃないか」って言えるんですが、私は今でもまだ「うまく回らないんだけど」とか「腰で押しているんだけど全然ついてこない」という感覚的な言い方になってしまいます。エンジニアさんはその感覚をくみ取って対応してくださるので、本当に有難いですね。作中でもそのあたりのやりとりが描写されていてリアルだなと思っていました。
阿部
私は執筆にあたって、車いすメーカー・オーエックスエンジニアリングさんの本社にお邪魔して、営業担当の安大輔さんにお話を伺いました。「一番大事なことって何ですか」って聞いたら、「どこまで懐に入れるか、ですかね」っておっしゃっていました。それを私の頭のなかで独自解釈したセリフにして、作中でエンジニアの小田切にしゃべらせたりしましたね(笑)。
プロフィール

阿部暁子(あべ・あきこ) 岩手県出身、在住。2008年『いつまでも』でロマン大賞を受賞し、デビュー。著書には、『室町少年草子 獅子と暗躍の皇子』『戦国恋歌 眠れる覇王』『鎌倉香房メモリーズ』シリーズ、『どこよりも遠い場所にいる君へ』『また君と出会う未来のために』がある。

大谷桃子(おおたに ももこ) 1995年8月24日生まれ、栃木県出身。小学3年生からテニスを始め、高校ではインターハイに出場。2016年からは車いすテニスに転向し、2020年には初めてのグランドスラム(世界四大大会)となる全米オープンに出場。続く全仏オープンでは女子シングルス決勝に進出した。今年の全豪オープンはベスト4。東京2020パラリンピックに初出場。

話題
沸騰!

パラ・スター〈Side 百花〉
親友で車いすテニス選手の宝良のために、最高の競技用車いすを作りたい! その熱意とは裏腹に、焦りばかりが募る新米エンジニアの百花だが……。

話題
沸騰!

パラ・スター〈Side 宝良〉
事故で車いす生活を余儀なくされた宝良。親友、百花の強引な誘いで車いすテニスと出会い、やがてパラリンピック出場を目標に掲げる。夢は叶うのか?

好評
発売中!

集英社文庫
阿部暁子さんの本

室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君
南朝の姫君、透子は北朝に寝返った武士、楠木正儀を連れ戻すため京の都に向かう。宿敵、足利義満や、猿楽師の美少年・世阿弥との出会いを経て、彼女が知った広い世界とは?