連載
沖縄はどう生きるか
①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記 佐野眞一 Shinichi Sano

 取り扱うのは沖縄の歴史、政治、経済、犯罪、基地問題……。要するに本土の人間が見て見ぬふりをしてきた沖縄と、沖縄の人間が隠し通してきた「不都合な真実」のすべてである。
 その第一回目にうるま市女性暴行殺人事件を取り上げたのは、この救いがたい事件に、いつまで経っても是正されない「日米同盟」のゆがみが集約していると思ったからである。
 私はこの事件の一報を聞いたとき、二つの陰惨なレイプ事件を思い出した。
 ひとつは、まだ沖縄戦の焼け跡が生々しく残る1955(昭和30)年9月、嘉手納海岸近くの部隊の塵捨て場でレイプされ殺害された幼女の遺体が発見されるという事件である。
 アメリカ兵に殺害されたのは、当時の石川市(現・うるま市)に住む「由美子ちゃん」という6歳の幼稚園児だった。「由美子ちゃん」は強姦されたとき必死で抵抗したのだろう、右手には雑草がきつく握りしめられていたという。
 もうひとつは、それから40年後の1995(平成7)年9月、黒人のアメリカ海兵隊員など3人の米兵が、12歳の少女を車で拉致して集団強姦した、痛々しすぎる事件である。
 特に1995年の少女集団強姦事件は、沖縄県民の間にくすぶっていた反基地感情を一気に爆発させ、日米地位協定の見直しや基地縮小運動の機運を高めるきっかけになった。
 しかし、いまも日米地位協定の見直しはなされていないし、米軍基地は縮小されるどころか、中国や北朝鮮の脅威を口実にむしろ拡充の方向にある。
 いま埋め立てが着々と進む辺野古(へのこ)から約1時間あまり北上すると、鬱蒼とした森林地帯が見えてくる。ここは「やんばる」と呼ばれ、世界的に貴重な動植物の生息地となっている。
 その一画にある人口約150人あまりの東村高江(ひがしそんたかえ)に、ヘリパッド基地が強行建設されようとしている。
 辺野古ではサンゴ礁が無残にも埋め立てられ、高江では豊かな森林が容赦なく伐採されている。
 沖縄が誇る美しい大自然を二度と戻らないものにしてしまうような暴挙が、本土からあまり目の届かないところで白昼堂々と行われているのである。
 そして日本各地から集められた機動隊員たちは、反対する人びとに向かって「どこつかんどんじゃ。ボケ、土人」という差別語を喚(わめ)きながら、アメリカ軍御用達の基地建設を躍起になって押し進めている。
 この「土人発言」を聞いたとき、私は最近観たばかりの『デトロイト』というアメリカ映画を思い出した。
 これは、1967年にアメリカ北部のミシガン州デトロイトで実際に起きた暴動事件を、キャスリン・ビグローという女性監督がドキュメンタリータッチで描いた作品である。
 この事件では死者43人、負傷者は1000人を超え、フォードなどの自動車製造工場があることで有名なデトロイトの街は非常事態に陥った。
 映画では暴動鎮圧に動員された白人警察官は、罪もない黒人3人を射殺する。にもかかわらず彼らは罪に問われない。
 本土と沖縄の醜い関係は、すでに世界中から笑いものになっているアメリカ社会の白人と黒人の時代錯誤の対立関係を連想させる。



 
〈プロフィール〉
佐野眞一(さの・しんいち)
ノンフィクション作家。1947年、東京生まれ。97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『巨怪伝』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』『沖縄戦いまだ終わらず』など多数。
Back number
④沖縄県人に活を入れる“琉球一の男”徳田球一、波瀾万丈の人生
③誰にも知られたくなかった沖縄の戦前の謎と戦後の闇
②元海兵隊員も反対の座り込みに参加する辺野古埋め立てと高江のヘリパッド基地
①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記