連載
沖縄はどう生きるか
①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記 佐野眞一 Shinichi Sano

 開廷するとすぐ裁判官席に向かって右手の扉が開き、シンザト被告が看守に連れられて入廷した。
 白の半袖のTシャツに紺色のジャージパンツ、履物は素足に黒いサンダルという格好は、これからどこかのビーチにでも遊びに行くようなスタイルだった。
 しかし、両手には手錠がかけられ、逃げ出すことができないよう被告の体に巻き付けた腰縄の端を看守がしっかりと握った光景は、紛れもなく犯罪者の姿だった。
 残忍な罪状から見て2メートル近い大男が現れるかと思っていた。だが、身長は175センチ、体重は69キロということが、この日の法廷で明らかにされた。
 シンザトはうなだれてもいなかったが、昂然(こうぜん)としていたわけでもなかった。ただ、この法廷に欠かせない点景人物のようにして被告席にいた。そこからは何の感情も湧き出してこなかった。こんな奇妙な犯罪者を見るのは初めてだった。
 シンザトは黒人だが、肌の色も浅黒い程度で、人によってはハンサムに見えるかもしれない。
 一方、シンザト被告に殺された島袋里奈さんは、身長152センチ、体重44キロという小柄な女性である。
 アメリカ人としては小柄だとはいえ、これほど体格差のある男にスラッパー(後述)で思い切り殴られれば、ひとたまりもなく気を失ったことだろう。
 初公判の法廷で、私が一番注目したのは、裁判員席にどんな顔ぶれの裁判員が並ぶかについてだった。
 6人の裁判員のうち、何と5人が女性だった。しかも大半は20代から30代の若い女性に見えた。
 それを見た瞬間、これは最低でも無期懲役、ひょっとすると死刑判決が出るかもしれないと思った。
 自分の年齢に近い女性が何の罪もなく命を絶たれたことを思えば、犯人に極刑を望みたくなるのは当然の感情である。

 この裁判が始まるかなり前、強姦致死などの性犯罪に対して出された判例を調べてみた。福岡高裁は2017年6月、殺人、強姦致死、わいせつ目的誘拐、死体遺棄罪の被告に無期懲役の判決を出している。求刑は死刑だった。
 最も重かったのは、最高裁第一小法廷が2012年2月、殺人、強姦致死罪などの罪を犯した被告に対して出した死刑判決だった。ただし、これは被害者2名というケースだった。
 性犯罪の案件で、被害者が1人で死刑判決が出された例はない。こうした判例を勘案すると、シンザト被告も、死刑は免れるだろうと思った。
 傍聴席にも女性の姿が目立った。
「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」共同代表の高里鈴代や、沖縄のキャバクラなどの風俗店で働く女性や米兵にレイプされた女性たちを取材してレポートした『裸足で逃げる』(太田出版)の著者の上間陽子(琉球大学教授)の姿もあった。
 裁判員はほとんど女性、そして傍聴席には沖縄で高名な女性の論客が座る。こうした顔ぶれのせいもあって、被告に注がれるまなざしは一段と厳しく感じられた。



 
〈プロフィール〉
佐野眞一(さの・しんいち)
ノンフィクション作家。1947年、東京生まれ。97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『巨怪伝』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』『沖縄戦いまだ終わらず』など多数。
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①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記