連載
沖縄はどう生きるか
①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記 佐野眞一 Shinichi Sano

 初公判で私の前の傍聴席に座った前記の高里鈴代は、「琉球新報」に興味深い見解を寄稿している。以下、その前半部分を記す。

〈検察官の詳細な現場状況の説明に彼女の叫び声が聞こえてくるようだった。
 弁護人は「一人の人間として被告を見るべきで、米軍基地の問題ではない」と述べたが、事件は米軍の存在と無縁ではない。(被告が被害者の)ひざの裏や首の後ろを狙って刺したのは「敵を完全に弱らせる」という米軍兵士時代に習得した訓練ではなかったか。検察の陳述で「スラッパーという鉄と鉛でできた音が立ちにくい棒で襲った」と言っていたように、その武器を準備し、使ったことや、女性の遺体を運んだスーツケースを基地内で捨てたことなどは、米軍経験者や米軍属でなければできないことだ。
 準備があまりにも用意周到なことも気になった。本当に初犯なのだろうか。実は前にも成功例があるのではないかとさえ感じさせられた。(後略)〉

 高里のこの推測が、いうなれば「当たらずとも遠からず」だったことは、後で述べたい。
 初公判が開かれたのはシンザト被告が起訴されてから実に1年5か月後のことだった。これほど裁判の進行が遅れたのは、一つには弁護側がシンザト被告の精神鑑定を求める方針を示したためだった。
 この方針は結局見送られたが、シンザト被告が海兵隊入隊前にうつ病で入院した米国の病院の投薬治療の記録などは収集された。
 またシンザト被告は弁護人に、反米感情の根強い沖縄では公正な裁判が期待できないので沖縄以外の裁判所での審理を希望することを訴えた。これも初公判が大幅に遅れる原因となった。
 この訴えを聞いた弁護人は東京地裁での裁判を求める請求を提出した。だが、この請求は最高裁によって棄却された。
 さらに予定されていた裁判長が健康上の理由で交代したことや、担当検事が代わったことも、公判を大幅に遅れさせた。

 シンザト被告の内面は奇々怪々である。それは、前掲の「星条旗」に赤裸々に語られている。
 シンザト被告の告白記事が「星条旗」に掲載されたのは、2017年2月13日である。これはシンザト被告が拘置所での接見中に主任弁護人の高江洲歳満に語ったもので、全文を公開しないという条件で「星条旗」に提供された。
 原文は英文だが、それを翻訳した記事の要点をピックアップしておこう。この記事ではシンザト被告は旧姓のガドソンで表記されている。

〈収監中のガドソンは、島袋さんを強姦しようとして殺害したことは認めているが、彼女を殺害するつもりはなかったと述べている。
 ガドソンの主任弁護人である高江洲歳満弁護士は、ガドソンが犯行を認めたのは、自殺しようと思って飲んだ睡眠薬の影響だと主張した。
「(ガドソンは)報道のされ方が公平に扱われていないと感じるだけの法的能力を有しているが、彼が犯した行為の深刻さについては理解する能力を有していない」と高江洲は語った。「彼は犠牲者に対して罪の意識を全く感じていない。彼によれば、事件が起きたとき、その場にいた彼女の方が悪い、ということになる」〉

 


 
〈プロフィール〉
佐野眞一(さの・しんいち)
ノンフィクション作家。1947年、東京生まれ。97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『巨怪伝』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』『沖縄戦いまだ終わらず』など多数。
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①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記