連載
「沖縄はどう生きるか
①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記 佐野眞一 Shinichi Sano

 シンザト被告は、壮絶な生い立ちや暴力的妄想への執着、混乱した思考や行状についても詳細に語っている。

〈ガドソンは、8歳の頃から頭の中で声が聞こえると訴えており、何度も自殺しようと考えたと述べた。彼はまた、彼の育ての母を殺そうと思ったと語り、彼女が自分を虐待していたと非難した。しかし、里親の母は、弁護団に対し文書で虐待の事実を否定している。
 ガドソンは2007年に行われた海兵隊でのグループ面接で、「人を殺したいから」という第一希望で海兵隊に入りたいと述べた、と語った。彼は、木の実に対するアレルギーがあり、そのために一度海兵隊に不合格となったが、医師の診断書を改ざんして、入隊することができた、と述べている。
 ガドソンはまた、自殺するために、海兵隊の同僚を撃とうかと考えたことがあったと語った。
 供述書によると「訓練の間、私はときどき、自分自身を殺したいという衝動に駆られた」とガドソンは言う。「遠泳訓練の間は、どのくらい泳いだら溺れ死ぬことができるだろうかと考えていたことを記憶している。また、射撃練習場では茂みの中に入っていって、他の隊員を撃って、自分も撃ち殺されたい、という衝動に駆られた」〉

 衝撃的な供述である。
 この供述からは、「殺人マシーン」になるための教育をする海兵隊という特殊部隊が、これほど異常な人間でもノーマーク同然で採用していることがわかる。背筋が寒くなる話である。
 シンザト被告はどう考えても常軌を逸している。しかしそれ以上に私が言いたいのは、シンザト被告が逮捕されるやいなや、米軍が、「この事件は米軍とはまったく関係ない」と表明したことである。
 沖縄は日米安保体制下の「捨て石」の島とはよく言われる。だがこれほどの事件を起こしてもまったく責任を取らない米軍にとって、シンザト被告も「捨て石」でしかなかった。
 本土のメディアはこういう大事なことはほとんど伝えていない。だから沖縄の米軍機事故や米軍がらみの事件が起きると、本土のSNSで「沖縄だけが犠牲者なのではない」「沖縄はガマンを知らなさすぎる」といった心ない意見が飛び交うのである。
 これは極端な例だが、この裁判を報じた本土のメディアの扱いはひどく小さかった。
 唯一の例外は初公判直後の(2017年)11月25日に放送されたTBSの「報道特集」だった。
 シンザト被告の初公判に並んで傍聴抽選券をひいた金平茂紀がキャスターをつとめる番組である。
 この番組によると、2015年から現在まで軍事裁判にかけられ服役した沖縄の海兵隊員は59人を数えるという。罪状は主として性犯罪だった。
 前述の「星条旗」の紹介を続けよう。

〈供述書によると、ガドソンは、「高校時代から大人になるまでずっと」女性を拉致して強姦するという妄想にかられており、それをずっと抑え込んでいたと語った。
 彼は、その犯罪を実行する手段を持っていなかったが、内なる声がずっと彼に語りかけていた。そして4月28日の夜に、それが一気に噴き出したと語った。
 星条旗は、彼が述べた事件の詳細については、あまりにも生々しい描写のため、公表を差し控える。
 彼女が私の車の前を過ぎたとき、はっきりと彼女が見えた。私の頭の中の声が私に言った。「あの女だ。あの女こそ、俺の夢をかなえる女だ。それでも私はまだ100%彼女がそうだとはっきりとは思えなかったが、空を見上げると、赤い満月が見えた。それがサインだと理解した」〉



 
〈プロフィール〉
佐野眞一(さの・しんいち)
ノンフィクション作家。1947年、東京生まれ。97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『巨怪伝』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』『沖縄戦いまだ終わらず』など多数。
Back number
④沖縄県人に活を入れる“琉球一の男”徳田球一、波瀾万丈の人生
③誰にも知られたくなかった沖縄の戦前の謎と戦後の闇
②元海兵隊員も反対の座り込みに参加する辺野古埋め立てと高江のヘリパッド基地
①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記