連載
「沖縄はどう生きるか
①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記 佐野眞一 Shinichi Sano

 判決日の12月1日は早朝から小雨が降る天気だった。それにもかかわらず、那覇地裁前には傍聴券を求めて655人もの人々が長蛇の列をつくった。
 傍聴希望者は初公判のときより157人も多い。倍率は実に29・8倍にものぼった。これらの数字が、沖縄におけるこの裁判への関心の高さを雄弁に物語っている。だが、その関心の高さを伝える本土メディアはなかった。
 裁判長はシンザト被告の逮捕直後の供述は、信用性があると指摘した上、殺意があったことを認め、検察官の求刑通り無期懲役を言い渡した。
 被告はそう言い渡されても、頬づえをついたまま無言の態度をとり続けた。
 島袋里奈さんの父親はその姿を被告が法廷を去るまでじっと睨みつけ、母親は判決が言い渡された瞬間、声を出して泣き崩れた。それを見た傍聴人の中には、もらい泣きする人もいた。
 判決後、父親は「被告には真実を述べて、私たちや娘に謝ってほしかった。被告人を許すことはできない」というコメントを発表した。
 さらにシンザトは米軍との雇用関係がないため、米国政府は遺族に対し、補償金は支払わない方向である。遺族とすれば、踏んだり蹴ったりの思いだろう。
 以下にあげるのは判決の要旨である。まず罪となるべき事実としては、次のように述べている。

〈第1 被告人は、見知らぬ女性を襲い、気絶させて強姦しようと考え、歩行中の被害者(当時20歳)に目を付け、平成28年4月28日午後10時頃、沖縄県うるま市字塩屋の県道33号線東側路上ないしその付近の草地(以下「暴行現場」という。)において、被害者を死亡させる危険性が高いことを認識しながら、あえて、スラッパーと称する打撃棒でいきなり被害者の後頭部を殴り、被害者の首を絞め、被害者の首の後ろ付近をナイフで数回刺すなどの暴行を加えたが、勃起せず、陰茎を膣内に挿入できなかったため、強姦の目的を遂げず、その頃、同所付近において、前記一連の暴行の結果、被害者を死亡させた。
 第2 被告人は、平成28年4月28日午後11時45分頃から同月29日午前零時10分頃までの間、沖縄県国頭郡恩納村安富祖120番地南東約400メートル付近の雑木林(以下「遺棄現場」という。)において、前記被害者の死体を投棄し、その上に土をかけて、遺棄した〉

 判決の理由については、こう述べられている。

〈同種事案の量刑傾向を確認した上で、被告人に科すべき刑について検討した。
 本件は、面識のない被害者を強姦しようとした被告人が、更に殺人、死体遺棄に及んだ事案である。
 動機は身勝手で、およそ酌量の余地はない。強姦については計画性も認められる。ただし、当初から被害者殺害目的で犯行に及んだとまでは認められない。
 被告人は、スラッパーでいきなり後頭部を殴打し、首を絞め、首の後ろ付近をナイフで刺すという危険な暴行を、被害者が死亡するまで続けた。人の命を大切に思う気持ちが少しでもあれば、途中でやめることができたはずである。
 ウォーキングをしていた被害者には、何の落ち度もない。被害者は、成人式を終えたばかりで、命を奪われた。その遺体は雑木林に捨てられ、ほぼ白骨化した状態で発見された。被害者の無念さは計り知れない。残された両親が、犯人に対して極刑を求めるのは、当然である。
 このような罪を犯した被告人の刑事責任は、誠に重大である。
 被告人の自白によって遺体が発見されたこと、被告人に前科がないことなどの事情を考慮しても、無期懲役より軽い刑を科す理由はない。
 他方、被害者参加人の意見を踏まえても、同種事案との公平の観点から、検察官の求刑を超えて死刑を科すべき特別な事情はない。
 よって、検察官の求刑どおり、被告人を無期懲役に処するのが相当である〉



 
〈プロフィール〉
佐野眞一(さの・しんいち)
ノンフィクション作家。1947年、東京生まれ。97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『巨怪伝』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』『沖縄戦いまだ終わらず』など多数。
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