連載
「沖縄はどう生きるか
①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記 佐野眞一 Shinichi Sano

 妥当な判決だったと思う。だが、シンザト被告はこの判決を不服として、判決から11日後の12月12日、福岡高裁那覇支部に控訴状を提出した。

 それから約1か月後の2018年1月16日、私は浦添市にある法律事務所で主任弁護人をつとめた高江洲歳満に会った。
 事務所の窓から、シンザトが海兵隊員として勤務したキャンプ・キンザーを間近に望むオフィスでのインタビューとなった。
 ――控訴後、シンザト被告には会いましたか?
「会っていません」
 ――控訴する意思があるかは、先生が聞かれたんですか?
「そうです。本人が控訴したいからと言うので、私は『どうぞ』と言ったんです。私の任務は一審で終わりだという話は最初からしてありました。私は国選ではなく私選ですから」
 ――そうすると控訴審では先生は弁護をやらないということですか。
「そういうことです」
 高江洲の口ぶりには、「やれやれ、こんなやりたくもない案件をやらされたんだ。控訴審は絶対御免だね」と言っているようなニュアンスがあった。
 ――そもそも先生に私選で弁護を依頼してきたのは誰ですか?
「最初の着手金を払ったのは、シンザト被告の奥さんです。奥さんと会ったのは着手金のときだけで、今はもうシンザト被告と離婚して沖縄にはいないようです」
 ――どんな感じの女性ですか?
「すごくマジメないい女性ですよ。彼にはもったいないくらいです。殺された女性は気の毒ですが、彼女は生きているだけにもっと気の毒です」
 ――失礼ですが、着手金はおいくらくらいだったんですか?
「金額についてはそんなに大きな額ではなかったとだけ申し上げておきましょう」
 高江洲はそう言うと、「被告が住んでいた与那原町の近所の評判はすこぶるよかったという話も聞きます」という話題に変えた。
 ――ええ、子煩悩だったという話も聞きます。
「裁判でも言いましたが、彼は躁鬱症(そううつしょう)なんです。躁のときは攻撃性が出ますが、鬱のときは非常におとなしい印象を与える人物なんです」
 ――そういう精神的問題を抱えている被告を海兵隊は、いわばふるいにもかけずに採用したわけですね。
「海兵隊というところは募集しても人が集まらないんです。だから誰でも採用しちゃう。それぐらいルーズな部隊なんです」
 高江洲弁護士によれば、海兵隊は南北戦争のとき南軍によって作られた部隊だという。
 しかし、これは高江洲の完全な思い違いである。
 アメリカ独立戦争のとき、アメリカ海軍の中に敵対するイギリス海軍に対抗して、後に海兵隊と呼ばれる組織が誕生した。これが歴史的事実である。



 
〈プロフィール〉
佐野眞一(さの・しんいち)
ノンフィクション作家。1947年、東京生まれ。97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『巨怪伝』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』『沖縄戦いまだ終わらず』など多数。
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①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記