連載
沖縄はどう生きるか
②元海兵隊員も反対の座り込みに参加する辺野古埋め立てと高江のヘリパッド基地 佐野眞一 Shinichi Sano

 翁長憎しの思いは、仲井眞だけでなく、官房長官の菅義偉も同じである。内地のある新聞社の政治部記者によれば、翁長沖縄県知事を引きずり下ろすのが、菅の今年最大の政治目標になっているという。
 菅はなぜ翁長をそれほど憎むのか。二人の間には修復できない近親憎悪がある。これが私なりの見立てである。
 菅は秋田の雪深い村で生まれ、高校卒業後集団就職で上京した。そしてアルバイトをしながら法政大学法学部に通った。
 菅より2歳年下の翁長は、那覇の保守政治家の家に生まれ、上京してやはり法政大学法学部に入った。
 翁長は菅のような苦学生ではなかったが、沖縄生まれの人間に当時注がれた本土の冷たいまなざしは、菅が若き日に味わった悔しさと似通ったものがあっただろう。
 二人はやがて政治家を目指すようになった。そのとき師と仰いだのが、橋本内閣で官房長官を務めた梶山静六(かじやませいろく)だった。
 菅と翁長に共通しているのは、ネット世界で言われるカツラ疑惑と、笑顔をめったに見せない愛想のなさ(というより陰気さ)、それに梶山静六の直弟子(じきでし)を自任する「われこそは保守本流なり」という傍(はた)迷惑なプライドの強さである。
 菅、翁長がともに師匠と仰ぐ梶山静六は陸軍士官学校出身の戦中派らしく、沖縄に寄り添う気持ちを常に持ってきた。翁長が「オール沖縄」を標榜して沖縄の立場に立ったのも、梶山の衣鉢(いはつ)を自分なりに継ぐつもりだったからだろう。
 一方、今や「影の総理」といわれるほどの権力者になった菅義偉は、「加計(かけ)学園問題」に関する文書をリークしたといわれる前川喜平(まえかわきへい)文科相前事務次官の出会い系バー通い疑惑調査や、その前川文書を「怪文書」扱いした発言、さらには菅にきつい質問を繰返す東京新聞の女性記者の身辺調査を命じるなど、師匠の梶山とは似ても似つかぬアナクロ(時代錯誤)を絵に描いたような強硬派の政治家になってしまった。
 安倍(あべ)の持論の「憲法改正」を実現するため、時代遅れのチンピラ政治家を安倍にせっせと紹介したのは菅だった。
 安倍政権は森友(もりとも)学園の文書改竄(かいざん)問題でいまや総辞職寸前の危機的状況に陥っている。だがそれまでの安倍右寄り政権の裏に、菅義偉官房長官の強い差配があったことは公然の秘密となっている。
 だから翁長と菅は相容れることは絶対にあり得ない。官邸(菅)vs.沖縄(翁長)の対立は、このままでは「内乱」になるといわれるほどである。
 菅がそれほど翁長を敵対視している以上、今年11月の沖縄県知事選で「オール沖縄」を標榜してきた翁長が敗退する可能性は少なくない。
 ただ問題は、翁長を破るだけの「いい玉」がなかなか見つからないことである。
 国立劇場おきなわ(浦添市)常務理事の又吉民人(またよしたみと)に、11月の沖縄県知事選の見通しについて聞いた。
 又吉は仲井眞の2回の知事選で選対事務局長(本部長は翁長)をつとめて勝利させ、仲井眞に対立して翁長が出馬した前回の知事選では逆に翁長陣営の選対事務局長をつとめている。
 この経歴からもわかるように沖縄の知事選事情に最も精通している人物の一人である。



 
〈プロフィール〉
佐野眞一(さの・しんいち)
ノンフィクション作家。1947年、東京生まれ。97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『巨怪伝』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』『沖縄戦いまだ終わらず』など多数。
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③誰にも知られたくなかった沖縄の戦前の謎と戦後の闇
②元海兵隊員も反対の座り込みに参加する辺野古埋め立てと高江のヘリパッド基地
①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記