連載
沖縄はどう生きるか
②元海兵隊員も反対の座り込みに参加する辺野古埋め立てと高江のヘリパッド基地 佐野眞一 Shinichi Sano

沖縄県民はトランプ大統領を歓迎したのか
 名護市長選より約1年前の2017年1月20日、ドナルド・トランプが第45代アメリカ合衆国大統領に就任した。
 私が注目したのは、トランプ政権と沖縄との関係だった。
 トランプ政権の誕生により「日米同盟」はより強固になり、日本はさらに強い姿勢で沖縄を「捨て石」にする気なのか。
 それともトランプの「アメリカファースト」の持論通り、アメリカは日本防衛の姿勢を根本から見直し、沖縄の基地撤退も視野に入れてくるのか。
 そのトランプに加え、北の「ロケットマン」こと金正恩 (キム・ジョンウン)の不穏な動きが、沖縄を取り巻く東シナ海の波風を一層荒立てている。
 こうした状況を沖縄県民はどう見ているのか。それを知りたいという一心にかられて、トランプの大統領就任日当日に沖縄に飛んだ。
 初めに会ったのは、元琉球新報記者で沖縄国際大学大学院教授の前泊博盛(まえどまりひろもり)だった。
 琉球新報記者時代から長い付き合いのある前泊は、宜野湾市の沖縄国際大学の研究室を訪ねるなり、「まずはここを見てください」と言って、研究室の窓を開け、ベランダに私を招き入れた。
 部屋の窓を開けるなり、耳をつんざくようなすさまじい轟音が飛び込んできた。ベランダの真下は、オスプレイが離着陸を繰り返す普天間飛行場だった。
「いいところに研究室があるね」
「ねえ、いいでしょう。沖縄の米軍基地問題を研究するにはこれ以上の環境はありませんよ」
 前泊の減らず口は、新聞記者時代とまったく変わっていなかった。
 ――今日はトランプの大統領就任日だから、トランプについて聞きに来ました。といってもまだ海のものとも山のものともつかない男なので、こういう質問から入りたいと思います。戦後のアメリカ大統領の中で、沖縄の人が一番好きな大統領は誰だった? 逆に一番嫌いな大統領は誰だった?
「嫌いなほうは簡単。ケネディしかいない。これは僕だけでなく、沖縄県にはそう考える人が多いと思います。ケネディは1962年にキューバ危機を起こして、世界を核戦争の恐怖に陥れましたからね。本土の人はどうだったか知らないけれど、沖縄の人は本当に核戦争が起きるんじゃないかと心から心配した。僕は当時2歳だったから記憶がないけど、沖縄の人は米軍基地がある沖縄がソ連からの核攻撃で消滅するんじゃないかと思って、恐怖で眠れなかったと言います」
 この答えには少なからぬショックを受けた。ジョン・F・ケネディといえば、私らの世代の人間にとって、「ニューフロンティア・スピリット」という言葉で時代に新風を吹き込んだアイビーカットの希望の大統領だったからである。
「好きな大統領? これは難しいけど敢(あ)えて言うなら、ニクソンかな。沖縄の本土復帰の功労者でしたからね」
 1972年5月15日の沖縄の本土復帰が、安倍晋三の大叔父の佐藤栄作(さとうえいさく)とニクソンの会談によって実現したことは、今では教科書にも載っている。
 しかし、沖縄にとって好ましいアメリカ大統領はと聞かれて、まさかニクソンという答えが返ってくるとは夢にも思わなかった。



 
〈プロフィール〉
佐野眞一(さの・しんいち)
ノンフィクション作家。1947年、東京生まれ。97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『巨怪伝』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』『沖縄戦いまだ終わらず』など多数。
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