連載
沖縄はどう生きるか
②元海兵隊員も反対の座り込みに参加する辺野古埋め立てと高江のヘリパッド基地 佐野眞一 Shinichi Sano

 前泊の答えに本土と沖縄の「温度差」が象徴的に語られている。本土のほとんどの人間にとっては、ウオーターゲート事件のニクソンは、アメリカの悪の権化のイメージしかないだろう。
 ただ、ニクソンについて一言擁護しておけば、二期目の大統領就任直後の1972年、中国を電撃訪問し東西対立に雪どけムードを作り、ベトナム戦争に終結宣言するなど世界史的に大きな成果をあげた。
 ケネディ対ニクソンというと、われわれ日本人はすぐ見てくれのイメージだけで考えてしまう癖があるが、それはいますぐ考え直した方がいい。そのことを、沖縄であらためて教えられた。

 その夜、那覇市安里(あさと)の飲食街にあるカラオケバーに行った。知人を通じてその店で用意してくれた大型テレビでトランプの大統領就任式を観るためだった。
 安里は新都心のおもろまちに隣接した町だが、私が入った店は栄町社交街に近く、場末のイメージが濃厚に漂っていた。古い旅館の前にはかなり年配のオカマらしい街娼とおぼしき人物が数人、所在なげに突っ立っていた。
 この辺り一帯は沖縄戦で、米軍がシュガーローフの戦いと呼んだ激戦地だった。この激戦地では2600名あまりのアメリカ海兵隊員が戦傷死した。それから72年後、同じ場所で、アメリカ連邦議会議事堂で行われたアメリカ新大統領の就任式を観るというのも、何かの因縁かもしれない。
 就任式自体は可もなく不可もなかった。ただ、予想していたより見物人がずっと少なかったこと、それに側近がほとんど白人で占められていたこと、加えてトランプ一家の華やかさというより派手派手しさが、まるでハリウッド映画の『アダムス・ファミリー』のように見えたことだけが印象に残った。
 それ以上に驚いたのは、アメリカの新大統領就任の日だというのに、那覇の町にはその話題を出す人間が一人も見当たらないことだった。
 暗い町にはトランプを祝う声もなければ、批判する声もなかった。その静けさが却(かえ)って無気味だった。
 沖縄の人々にとってアメリカの大統領が誰になるかなど、まったく興味の外なのかもしれない。アメリカは沖縄にとってそれほど遠い国だとも言えるし、逆に沖縄はそれほどアメリカに組み込まれた島になってしまったとも言える。
 それはもはや、諦めの気持ちとなってしまっているからかもしれない。これが、トランプ就任式の夜、私が那覇で感じた一番の感想だった。
『日米同盟vs.中国・北朝鮮』(文春新書)という本がある。まだ日本が民主党政権下にあったときに書かれた本だが、日本とアメリカの関係を考えるとき極めて示唆に富む本になっている。
 この本には、共和党のジョージ・ブッシュ政権下で国務副長官を務めたリチャード・アーミテージと、民主党のクリントン政権下で国防次官補だったジョセフ・ナイという二人の知日派の意見が紹介されている。
 アーミテージは、鳩山由紀夫が掲げた「対等な日米関係」という考えに根本的な疑問を呈して、こう述べている。
〈鳩山氏は日米同盟というものをきちんと理解していないのだということです。米国が維持している国防費の規模や軍事力、そして世界最大の経済力ということを考えれば、日米関係は対等ではないのです〉



 
〈プロフィール〉
佐野眞一(さの・しんいち)
ノンフィクション作家。1947年、東京生まれ。97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『巨怪伝』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』『沖縄戦いまだ終わらず』など多数。
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