連載
沖縄はどう生きるか
②元海兵隊員も反対の座り込みに参加する辺野古埋め立てと高江のヘリパッド基地 佐野眞一 Shinichi Sano

 一方、ジョセフ・ナイは沖縄の駐留米軍問題にふれて、もっとストレートに次のように語っている。要約すると、
「沖縄の海兵隊はその好例です。もちろん、青森県の三沢基地や横須賀基地なども含まれます。これらの基地、米軍兵力はいずれも日本にとって、米国の核の抑止力を最も強く担保してくれるものなのです」
 この本に触発された私がここで言いたいのは、民主党、共和党に限らずアメリカという国は、日本にとってまさに強大な「核の傘」そのものであり、対等に付き合ってもらえるようなヤワな国家ではないということである。
 この事実は日本にとって非常に不愉快なことである。とりわけ米軍基地を押し付けられた沖縄にとっては我慢ならないことだろう。
 しかし、こうした事実があることを直視しなければ、何事も始まらない。これが、現実の世界である。
 トランプ問題についてもう一言付け加えておきたいことがある。本土復帰前アメリカと激しく対立して投獄された沖縄人民党書記長の瀬長亀次郎(せながかめじろう)という男がいる。
 瀬長については、最近映画(『米軍(アメリカ)が最も恐れた男〜その名は、カメジロー〜』)にもなったので、名前ぐらいは知っている人もいるだろう。だが、瀬長の生涯はあの作品に描かれたような甘いものではない。その辛酸を嘗(な)め尽くした人生については、本連載の後段で述べたい。
 その亀次郎の長女の瀬長瞳は、長くカナダで暮らしている。そんなせいもあって、アメリカの政治についても大変詳しい。
 彼女がたまたま沖縄に帰ってきた機会をつかまえて、インタビューすることができた。その詳細は後に譲るが、アメリカ大統領選についてこんな質問をしてみた。
 ――ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプの一騎打ちはどちらが勝つと思っていましたか。
「それはトランプです。トランプはバカですが正直です。ヒラリーは利口ですがウソつきです。彼女がアメリカの軍産複合体企業から莫大な献金をもらっていることは、アメリカ人だったらみんな知っています。アメリカ人はとにかくウソつきが大嫌いなんです」
 父親の亀次郎がアメリカに苛(いじ)め抜かれたことを知っているだけに、瀬長瞳のこの意見には逆に強い説得力があった。
 脳科学者の中野信子は、「文藝春秋」(2017年3月号)に、「トランプはサイコパスである」という刺激的なタイトルの文章を書いている。
 人間の意思決定には、「早いシステム」と「遅いシステム」の二つがある。これが中野の論旨の根拠である。これを使って中野はわかりやすく説明している。
〈例えば、目の前に美味しそうなケーキがあったとしましょう。「わっ、食べたいな」と考えるのが、早いシステム。「今これを食べたら三カ月後に太ってしまうから止めておこう」と判断するのが、遅いシステムです〉
 中野によれば、この二つのシステムはしばしば矛盾を起こすという。
〈“トランプ現象”を多くのメディアが予想できなかったのは、ジャーナリズムに携わる多くの人が知的階級(エリート)だからです。遅いシステムが効きやすい彼らにとっては「人々の理性が麻痺し、トランプ大統領を選択する」ということは、まったくの想定外だったのです。



 
〈プロフィール〉
佐野眞一(さの・しんいち)
ノンフィクション作家。1947年、東京生まれ。97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『巨怪伝』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』『沖縄戦いまだ終わらず』など多数。
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④沖縄県人に活を入れる“琉球一の男”徳田球一、波瀾万丈の人生
③誰にも知られたくなかった沖縄の戦前の謎と戦後の闇
②元海兵隊員も反対の座り込みに参加する辺野古埋め立てと高江のヘリパッド基地
①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記