連載
沖縄はどう生きるか
②元海兵隊員も反対の座り込みに参加する辺野古埋め立てと高江のヘリパッド基地 佐野眞一 Shinichi Sano

 ところが、トランプ氏は、選挙において、“大衆”が遅いシステムではなく、早いシステムで意思決定をすることを理解していました〉
 なぜトランプはそんな能力を身につけることができたのか。中野は、それはトランプが生まれついてのサイコパスだったからと述べている。そして、こう続けている。以下、かいつまんで記す。
 サイコパスは日本語では「精神病質」と訳されるが、近年の脳科学の劇的な進歩によって、政治家や大企業のCEO、弁護士、外科医など時に冷酷な判断が求められるリーダーには、サイコパスが多いことがわかってきた。
 サイコパスの特徴は、優秀な指導者に求められる要素でもある。サイコパスは根拠のない自信があり、既存のメディアを嫌う。そして自分の気に食わない意見には罵詈雑言で対決し、人間関係はすべて利害関係だと考えている……。
 これらの指摘がすべて当たっているかどうかは別として、なかなか興味深い分析である。
 トランプが大統領就任後、重要閣僚を次々とクビにしたことや、TPP離脱を目玉政策にあげておきながら、今年4月TPP復帰への検討を命じた事実などは、まさに「サイコパス」人間にしかできないふるまいだったといえる。
 さらに言うなら、トランプはシリアへのミサイル攻撃で第三次世界大戦の引き金ともなりかねない米ロの深刻な対立を引き起こす可能性も出てきた。
 いずれにせよ、こうした「サイコパス」型人間が米国の大統領に選ばれてしまったことが、世界の混乱の始まりだったということだけは間違いなく言える。
 このトランプ論を読んで、トランプの大統領就任式が行われた昨年1月21日未明(現地時間では前日20日の昼)、私が那覇で感じた沈黙の深さの意味がわかったと思った。
 中野は島国でムラ社会の日本にはトランプタイプの人間は少ないが、時には織田信長のようなトランプタイプの人間が出現して日本社会を混乱させた、と述べている。
 日本に統合される前の琉球王国は、上手な外交手腕で大国との争いを未然に防いできた。
 1872(明治5)年の琉球処分によって、琉球王国は日本に組み入れられ、琉球藩となり、その後1879年(明治12)沖縄県となる。
 そして「ソテツ地獄」といわれた戦前の困窮時代を経て、太平洋戦争敗北後、アメリカ統治の時代になった。
 元の日本に戻り沖縄県となるのは、1972(昭和47)年の本土復帰によってである。こうした複雑な歴史をもった世界にトランプという、織田信長のような冷酷無比な男が突然強い影響力をもって現れた。そのトランプに日本政府は思考停止のまま乗っかっているというのが現状である。こうした状況にあっては、アメリカと日本の言いなりになってきた沖縄県民としてはトランプの大統領就任式に沈黙せざるを得なかったのだろう。
 沖縄県知事の翁長もトランプ誕生後すぐに渡米したが、面会はすげなく断られている。たとえトランプに会ったとしても何の成果も得られなかったのではないか。「基地」という二文字を出しただけで、翁長はホワイトハウスから叩き出されたに違いない。

 


 
〈プロフィール〉
佐野眞一(さの・しんいち)
ノンフィクション作家。1947年、東京生まれ。97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『巨怪伝』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』『沖縄戦いまだ終わらず』など多数。
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④沖縄県人に活を入れる“琉球一の男”徳田球一、波瀾万丈の人生
③誰にも知られたくなかった沖縄の戦前の謎と戦後の闇
②元海兵隊員も反対の座り込みに参加する辺野古埋め立てと高江のヘリパッド基地
①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記