連載
「沖縄はどう生きるか
④沖縄県人に活を入れる“琉球一の男”徳田球一、波瀾万丈の人生 佐野眞一 Shinichi Sano

 “獄中十八年”でリンチ査問事件や「転向」問題も関与しなかった僥倖

 日本共産党が設立されたのは、1922(大正11)年7月15日である。委員長には堺利彦が選出され、書記長には荒畑寒村が選ばれた。
 徳田は山川均、近藤栄蔵(こんどうえいぞう)などと並んで7人の中央委員の1人となった。当時徳田は28歳だった。
 この創立メンバーのうち、幹部だった野坂参三はその後除名され、佐野学(さのまなぶ)と鍋山貞親(なべやまさだちか)は獄中で転向した。また山川均は戦後日本社会党入りしたため、最晩年まで一貫して日本共産党員を貫いた創立メンバーは徳田だけだった。
 日本共産党の幹部となった徳田が最初に逮捕されたのは、入党して約1年後の1923(大正12)年6月に起きた第一次共産党検挙事件によってだった。
 徳田はこの検挙によって市谷刑務所に収監された。市谷刑務所は江戸時代の伝馬町(てんまちょう)牢屋敷にルーツを持つ古い刑務所である。アナーキストの大杉栄(おおすぎさかえ)もここに収監された。
 徳田は関東大震災をこの市谷刑務所で迎えた。このときの様子が『獄中十八年』(時事通信社)に生々しく描かれている。
 後でも述べるが、徳田の描写力は官能的ともいえるほどで、読む者を興奮させずにはおかない。
 これは徳田が天性のアジテーターだった証拠とも言えるが、見方を変えれば、それこそが徳田が危険な煽動家の証拠だと言う人もいるだろう。
 囚人たちは房内にいると危険なのでみな戸外に出された。以下は徳田が目撃したそのときの描写である。
〈ところが戸外は、正午をちょっとまわったばかりで、ひざかりの太陽がかんかん照りつけている。みんなながいあいだ監房にとじこめられていたのが、急にそのひざかりのそとへでたものだから、こんどは日射病にやられてたおれるものがでてきた。わたしはそうでもなかったが、同志の渡辺政之輔と田代常二(たしろつねじ)とは、日射病のために全身がけいれんをおこし、みるまに顔いろがなくなった〉
 真っ暗な房内から、突然強い日差しがさんさんと降り注ぐ戸外に放り出された囚人たちの恐怖が目に見えるようである。
 ここに登場する渡辺政之輔(わたなべまさのすけ)は通称「わたまさ」と呼ばれた古参の共産党員である。国際連絡の帰りに台湾に渡ったところで刑事に不審尋問されたため発砲して殺害し、自分も拳銃自殺した。また田代常二は非共産党員だったが、1923(大正12)年の第一次共産党事件で誤認逮捕された男である。
 徳田は看守にかけあって、日射病にやられた連中を監獄の中の病舎に移し、戸外の約800人を中庭に集めた。
〈監獄がわでは、われわれを監房から出すと同時に、いちはやく軍隊に通報したとみえて、まだ日のくれないうちに軍隊が出動してきて、監獄の塀のそとをとりかこみ、夕方には中庭にはいって、着剣ものものしくわれわれを包囲した。
 その日の三時頃、わたしは中庭の八百人のなかまたちにむかって一つの演説をした。
「いま、そとの情勢は非常に混乱している。われわれの身うちのものも、大部分は地震なり火事なりでやられているにちがいない。そこで、こういう特別のばあいだから、われわれは監獄にたいして、われわれぜんぶをただちに釈放するよう要求しようじゃないか。みんなのうちから代表をえらんで、すぐに役人に交渉しようじゃないか」
 こう提言したところが、みんな賛成して、各監舎から一名のわりでそくざに代表委員会ができあがった。これが「監獄自治会」のはじまりである。その後囚人たちの自治組織として、あの混乱のあいだじゅう、役人との交渉から食事にいたるまで、生活のすべてをりっぱに囚人自身の手で処理していった。いわば監獄のなかに民主主義を実現したわけだが、どろぼうや人ごろしのあつまりでありながら、この自治組織がりっぱに運営されたという事実は、いろいろな意味でげんざいも人をしてかんがえさせるものを持っているとおもう〉
 この市谷刑務所を振り出しに、徳田は豊多摩刑務所、網走刑務所、千葉刑務所、小菅刑務所、府中刑務所と日本の主だった刑務所を渡り歩いた。



 
〈プロフィール〉
佐野眞一(さの・しんいち)
ノンフィクション作家。1947年、東京生まれ。97年『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年『甘粕正彦 乱心の曠野』で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『巨怪伝』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』『沖縄戦いまだ終わらず』など多数。
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④沖縄県人に活を入れる“琉球一の男”徳田球一、波瀾万丈の人生
③誰にも知られたくなかった沖縄の戦前の謎と戦後の闇
②元海兵隊員も反対の座り込みに参加する辺野古埋め立てと高江のヘリパッド基地
①うるま市女性暴行殺人事件傍聴記