よみもの・連載

佐藤満春トイレの輪〜トイレの話、聞かせてください〜

第2回 ノンフィクション作家・高野秀行氏

佐藤満春Mitsuharu Sato

佐藤
高野さんが秘境に行かれるようになったきっかけって何だったんですか。
高野
謎とかミステリーがすごく好きで。僕らの世代の子供たちはみんな好きだったんですけども、大きくなるとみんな卒業していくんですね。ところが僕はなぜか卒業せずに、そのまますくすくと育ってしまったんです。ちょうど川口浩探検隊とか『インディ・ジョーンズ』という映画がはやったころというのもあったんですよ。
佐藤
はい。
高野
そういう影響もあって、未知のところに行って何か発見するとかやりたいって思って。それで、早稲田大学に入って探検部に入部したのがきっかけですね。
佐藤
行きたいなと思う人はいても、実際に行動するのはすごいことですよね。
高野
それは一種のくせみたいなもんなんで、やり続けちゃうとそんなに大変でもないし、むしろできてしまうんです。
佐藤
そういう、いろいろ現場で見てみたいっていう興味って、何十年も活動されてて薄れてこないもんですか。
高野
うーん、だんだん疲れてきますよ(笑)。でも、じゃあやめろって言われたら逆に、絶対行くと思いますね。
佐藤
何ていうか、どんどん刺激的なところに行きたいとか、もっともっとって感じになってくるもんですか。興味の範囲と言いますか。
高野
もっと違うもの、自分の常識がひっくり返るようなものとか、新しい発見だとか、何かまだあるんじゃないかって思いがちですね。
佐藤
なるほど。高野さんが行かれるような場所って、トイレの環境が整ってないところが多いと思うんですけど、いかがでしたか、これまでを振り返って。
高野
とにかくトイレの状況というのは、地域とか時代によって全く違いますよね。僕が一番最初に行った外国はインドだったんですよ。ただの旅行だったんですけど、もうほんとつらくて。当時僕は何にも探検的な活動とかしてなくて、いろんなことに不慣れで、そもそも辛いものが食べられなかったんです。
佐藤
インドに行ったのに(笑)。
高野
当時の日本って、一般家庭で辛い料理なんかなかったんですよ。辛いというのはしょっぱいという意味であって。
佐藤
確かに、香辛料とかはそんなに一般的じゃなかったですね。
高野
全く食べたことなかった。それなのに、インドの食べものには、唐辛子だけじゃなくていろんなスパイスが入っているわけじゃないですか。
佐藤
はい。
高野
ものすごく辛くて、二口、三口食べると舌が麻痺(まひ)する。しかもその後で、ものすごい下痢になるわけです。
佐藤
そうですよね。辛いもの食べると、どうしても。
高野
ところが町なかにトイレがないわけですよ。ほんとないんです。自分のホテルにはもちろんあるけども、外に出てると、町を歩くのが怖くて、怖くて。いつ便意が襲ってくるかと。
佐藤
それでトイレもないって。異国の地で(笑)。
高野
ほんとに恐ろしくって。だからその両方、辛くて食べたくないのとトイレがないのが恐ろしいのとで、一日中飯を食わなかった。でも、日が暮れてくるとさすがに体力的に食べないとまずいなという気がしてきて、すっごい憂鬱になってきましたね。
佐藤
インドは人口およそ13億人のうち5億人は屋外排泄をしていると言われています。原因は様々あるので解決までも時間がかかりそうで……。
プロフィール

佐藤満春(さとう・みつはる) 1978年生まれ。テレビ番組等の構成作家、お笑いコンビ「どきどきキャンプ」として活動中。トイレ博士としてイベントに出演したり、トイレを研究するラジオ番組のパーソナリティーなども務める。日本トイレ協会会員。掃除能力検定士(5級)。名誉トイレ診断士。トイレクリーンマイスター。

高野秀行(たかの・ひでゆき) 1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。
早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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