よみもの・連載

佐藤満春トイレの輪〜トイレの話、聞かせてください〜

第2回 ノンフィクション作家・高野秀行氏

佐藤満春Mitsuharu Sato

水洗トイレの普及は悪!?

佐藤
今、行かれてる国とかも多分トイレの環境はひどいというか、トイレ自体がないんじゃないですか。
高野
いや、ないところがいいんですよ。例えばその後アフリカのジャングルに行ったらいつでもできるから、すごくフリーなんですよね。だから、辺境というか、マイナーな国って、町が困るんです。ほんとの田舎に行っちゃうと、どこでもその辺にすればいいから、非常に気が楽ですよ。
佐藤
ああ。中途半端に整備された町なかとかが。それでトイレがない環境ってことですもんね。
高野
そう、トイレがないとか、あと宿に泊まってもトイレが壊れてるとか。特にアフリカがひどいんですけど、ヨーロッパ人が犯した最大の罪の一つは水洗トイレを普及させたことだと思います。
佐藤
おお、すごい、この話の目線はおもしろい。そうですか。
高野
だってあの洋式の水洗トイレっていうのは、とにかく水をたくさん必要とするわけですよ。
佐藤
今の最少モデルでもおよそ4リットル。古いタンク式では13リットルから20リットルは使います。
高野
まず水がそんなにたらふくないわけですよ。乾燥してるとこも多いし、上下水道が整ってない。そこにあんなに水を使うものを用意する。しかもすごく壊れやすいじゃないですか。ちょっとしたバランスですぐ詰まったり、引っかかったりする。最悪の代物ですよ、あれ。
佐藤
おお、なるほど。その角度のご意見はすごく新鮮です。そういう意味では、確かにそうですね。
高野
例えばアラブ式のトイレなんかはとても合理的だと思うんですよ。ご存じですか? アラブ式というのは、日本のくみ取り式に似ているけれども、水洗の、何というか便器が浅くて、ちょっと水を流すとすぐ流れていくという。
佐藤
少量の水で流れていく。
高野
やっぱり乾燥地帯で彼らが開発したものなんでしょうけども、あれはすごくいいですよ。缶に水をくんで流すと流れていく。
佐藤
ちょっとでいいですもんね。
高野
そうそう。西洋式はね、ひどい。ほんとあれで、もう何遍痛い目に遭い、苦しんできたか。
佐藤
日本は上下水道も大分整備されているので詰まることは減りましたけど、ちょっとしたことで詰まったりとか、あとタンクに水がたまりにくいとか。
高野
そうですね。で、故障していてもみんな使うじゃないですか。
佐藤
そのまま使いますよね。
高野
すると、うんこがたまってることがしばしばあって、ほんとね、ひどいときにはエベレスト状態になってるんですよ(笑)。便座に座れないわけ。座るとエベレストの頂上に肛門が刺さる(笑)。だから、ちょっとこう浮かして、下につかないようにして、またエベレストを高めていくという。
佐藤
次の人は、もう一段階高く。
高野
そうそうそうそう、どんどん高くなっていくというね。ほんとね、嫌でしょ。
佐藤
確かに。僕なんかは技術革新が楽しくてトイレのことを好きになったので、水洗になったのが悪いことだと思ったことがなかったんです。だから、今、ものすごく新鮮な、新しい感覚とか価値観に触れた感じがしますね。
プロフィール

佐藤満春(さとう・みつはる) 1978年生まれ。テレビ番組等の構成作家、お笑いコンビ「どきどきキャンプ」として活動中。トイレ博士としてイベントに出演したり、トイレを研究するラジオ番組のパーソナリティーなども務める。日本トイレ協会会員。掃除能力検定士(5級)。名誉トイレ診断士。トイレクリーンマイスター。

高野秀行(たかの・ひでゆき) 1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。
早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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