よみもの・連載

佐藤満春トイレの輪〜トイレの話、聞かせてください〜

第2回 ノンフィクション作家・高野秀行氏

佐藤満春Mitsuharu Sato

カートを食べると……?

佐藤
ちょっとトイレから離れるんですけど、ソマリランドに行かれたときに、カートを食べて便秘になったことがあったと。
高野
ありましたね。
佐藤
それがすごく興味深くて。カートってどんな感じなんですか。
高野
葉っぱなんですよね。見た目はサザンカやツバキの葉っぱそっくりなんですよ。その若葉をそのままばりばり食べるんですけど、食べるとしばらくしてちょっと気持ちがよくなるというか、精神が高揚してきて、酒を飲んだときにちょっと似てますよね。

佐藤
ああ、なるほど。
高野
そこに一緒にいる人たちと仲よくなった気がしてきて、親しみが湧いてきて、みんなで盛り上がるっていう。ただ酒と違って酩酊(めいてい)しないんですよね。意識はすごくはっきりしてるんですよ。そこで起きたことも忘れないし。
佐藤
ええ。
高野
よく長距離トラックの運転手とか、門番とか夜警の人とかが食べてて、要するに眠くならないんです。
佐藤
どうしても便秘になっちゃうものなんですか。
高野
それがちょっと科学的にどうなってるのか知りたいところなんですけど、多分、食べちゃうからいけないんだと思うんですよね。カートは、もともとの本場はイエメンなんですよ、アラビア半島の。僕も最初にカートを食べたのはそこなんですけど、食べずに出すんですよね。口の中でくちゃくちゃ噛(か)んで、エキスを吸ってぺって出す。それだと便秘にならないんです。だけどソマリ人は多分せっかちな性格だからだと思うんですけど、口の中で悠長に噛んで効いてくるのを待ってらんないんでしょうね。確実に食べたほうが早い。でもそのかすが全部引っかかってくる(笑)。なので、水とかお茶とか、あと特にラクダの乳をたくさん飲めって言われて、せっせと飲んでると流れますね。
佐藤
ソマリランドのトイレの環境ってそんなにいいものではないと思うんですけど、そんな中、便秘になることがわかってても食べちゃうんですか。
高野
いや、気をつければ便秘にならないって思ってるんで、食べて、でも、効いてるときは酒を飲んでる状態と同じなんで、深いことは考えなくなるんです(笑)。
佐藤
なるほど。
高野
飲み過ぎちゃいけないと思ってても、酔っ払うとそんなこと全くどうでもいいことのようになってくるじゃないですか。同じことが起きるんですよ。食べ過ぎると便秘になるとかってわかっていながらやめるっていう発想がどうしても生まれなくって、ずっと食べてて、次の日、明け方とかから、すごいつらいことになって。
佐藤
なるほど。で、日本に帰ってきてからって、どうなんですか。行ったら行ったで向こうで楽しんで、帰ってきて、あ、ちょっとカート食いてえなみたいな。その辺の感覚って、別に平気なんですか? 例えばお酒がちょっと量が多くなったりとか。
高野
食いたくてもね、ないから仕方ないですけど。最初ね、ちょっと三日くらい酒を受け付けないんです。多分ね、回路が違うみたいで。カートの回路になるとアルコールの回路が閉じちゃう。それはカートをやってるせいでは特になくて、アルコールを長く飲んでないと体が酔い方を忘れるっていう感覚ですよ。
佐藤
なるほど。
プロフィール

佐藤満春(さとう・みつはる) 1978年生まれ。テレビ番組等の構成作家、お笑いコンビ「どきどきキャンプ」として活動中。トイレ博士としてイベントに出演したり、トイレを研究するラジオ番組のパーソナリティーなども務める。日本トイレ協会会員。掃除能力検定士(5級)。名誉トイレ診断士。トイレクリーンマイスター。

高野秀行(たかの・ひでゆき) 1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。
早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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