よみもの・連載

佐藤満春トイレの輪〜トイレの話、聞かせてください〜

第2回 ノンフィクション作家・高野秀行氏

佐藤満春Mitsuharu Sato

次に行きたい場所は?

佐藤
今、高野さんが、次に行ってみたい場所とか、今後あそこを解明してみたいなとか思っている場所ってあるんですか。気になっている場所とか。
高野
今、イラクの湿地帯に行ってて、そこをいつか舟で旅したいと思ってるんですよ。人類最古のメソポタミア文明が発祥した地域で、アラブ人なのに水牛を飼って舟で移動してるという、不思議な水の民がいるんですね。全然知られてないんで、そこはおもしろいところなんですけども。トイレの問題がやっぱり大きくて、ジャングルとか山はいいんですけどね、どこでもできるから。ところが湿地帯、水の世界というのは、すっごいやりにくくて、船で移動してるときに催しても、できないじゃないですか。ほかの人たちがいるし。
佐藤
はい。
高野
しかも、浅いわけじゃなくて、深かったり泥沼だったりするから、川の中に入ってするわけにもいかないし、どこかに上陸するって言ったってそんな場所がない。あったとしても、人の家の、何て言うか葦(あし)でつくった浮島みたいな感じですよね。そこにトイレがあるかというとないわけですよ。一家の人たちは人が見てないときに端っこに行ってやるんだけども。でも、人の家に行くとなると、まず挨拶してから何かいろいろなことがあって大げさになっちゃうんですよ、訪問になっちゃうから。
佐藤
なるほどね。一度何だかんだ対応してね、お茶でも飲んで。
高野
じゃないと、いきなりうんこさせてくれとは言えないわけですよ。
佐藤
怖いですもんね。
高野
人の家に泊まってても、夜は水牛が放し飼いになってて、それが東南アジアの水牛と違って結構凶暴で、よそ者を見ると何だこいつみたいな感じで来るんですよ。あと、それを見張ってる犬もいて、がるがる言って。主(あるじ)の客だって認識してくれるならいいけど、ちょっとその保障がないわけです。すぐ食いつかれるおそれがあるじゃないですか。夜中はもう水牛の声と犬がほえる声がすごいわけですよ。そこに出ていく気がしないわけ。
佐藤
そうですね。怖いですね。
高野
それに、主とかその家の人を起こせばいいけど、夜中に起こしづらいじゃない。
佐藤
はい。
高野
すると、トイレ行きてえけどこれは……みたいな、ぎりぎりでせめぎ合って、白々と朝を迎える(笑)。
佐藤
寝れないし。すごいですね。
高野
それは嫌だなって思いますよね。
佐藤
でも行くんですもんね。
高野
うん。
佐藤
つきまといますもんね、食べものと排泄の問題はね。そっか、でも、それを超えるぐらいの思いと興味が、やっぱりその行動を後押ししちゃう。
高野
そうですね。
佐藤
そこも含めて体験されて、あと嫌なこと忘れて。
高野
そうそうそう。
佐藤
今日はめちゃくちゃおもしろかったです。貴重な機会をいただきましてありがとうございました!

── 了 ──


プロフィール

佐藤満春(さとう・みつはる) 1978年生まれ。テレビ番組等の構成作家、お笑いコンビ「どきどきキャンプ」として活動中。トイレ博士としてイベントに出演したり、トイレを研究するラジオ番組のパーソナリティーなども務める。日本トイレ協会会員。掃除能力検定士(5級)。名誉トイレ診断士。トイレクリーンマイスター。

高野秀行(たかの・ひでゆき) 1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。
早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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