よみもの・連載

佐藤満春トイレの輪〜トイレの話、聞かせてください〜

サトミツコラム「高野さんとの対談を終えて インドのトイレ事情」

 対談でも出てきたのだが、インドのトイレ事情がとにかく劣悪だという。
 もちろん、高野さんが行かれた多くの国でもそうした状況は変わらないわけだが、インドにおけるトイレ環境はその理由が多岐に渡るので非常に興味深い。
 まず、屋外排泄の問題点は大きく分けると2点。
 感染症や病原菌の温床になること、そして事件事故(性的暴行事件を含む)の危険性があることが指摘されている。排泄物は多くの菌を含んでいるし、排泄時は無防備であるからだ。

 2014年に就任したインドのモディ首相は衛生面に関して意識の高い首相で、国の政策としてトイレ設置を進めるプロジェクトを推進した人物だ。
 2019年までに屋外排泄ゼロを目指し、約1億2千万世帯へのトイレ新設を目指すという計画。今年はついに2019年だがその数字は達成できていない。
(この文章が掲載されるころに何かしら奇跡的な発明が起こってこの数字を達成していることを祈ってやまないのではあるが)
 うまくいっていない原因がいくつかあるので、検証していきたいと思う。

 インド政府の補助金のおかげで、ある地域では、地域の80%以上の世帯を網羅するほどトイレ環境が整ったという。
 しかし!! そのトイレのほとんどは使われなかったというのだ。
 トイレがないから屋外排泄を強いられていたと思われていた人たち。彼らが、トイレがあっても使えなかったのには理由がある。
 実は、トイレは完成したのに、そもそも上下水道が整備されていなかったのだ!
 上下水道のインフラの整備はトイレ環境を整える上で非常に大事ではあるが、「ただトイレを設置する」よりも多くの費用と時間が必要であるのは言うまでもない。
 日本で下水道が整備されるようになったのは、第二次世界大戦後、産業が急速に発展して、都市への人口の集中が進んでからとのこと。
 インドをはじめ世界ではまだまだこれから……しかも、そこに意識がいっているかどうかもわからない。
 トイレのことを考える時、どうしても上物(便器)だけを考えてしまいがちではあるが、実はその先の上下水道の整備の問題も同時についてまわるものだということを忘れてはならない。そして、そのための技術者も必要になってくるということだ。

 インドでトイレが使われないもう一つの理由は、インドで多くの人が信仰する宗教「ヒンズー教」に原因がありそうだ。
 ヒンズー教では「トイレ」「排泄」が不浄とされていて、家の中にまずトイレをつくりたがらない、家で排泄をしたがらないという。
 家にトイレをつくらず、外にある簡易的なくみ取り式のトイレを使用し、身分の低い人間が(不浄な仕事として)排泄物をくみ取る仕事をしているという。
 この価値観にどう立ち向かっていけばいいのか?
 モディ首相はトイレ環境を整える前に国民の意識改革(こんな単純な言葉ではないはず)をしなければならないというのだから、この道は果てしない。でも、避けて通れない道なのだろう。

 インドだけではなく中国、そしてインドネシア、バングラディシュでも国の対策としてトイレ環境の整備は進んでいる。
 高野さんの行かれたソマリランドをはじめ僻地(へきち)のトイレ整備はまだ先の先なのであろうが、とにかく「健康的で」「安全な」トイレ整備が進むべきであると誰しも思っていて、日本にいながらできることは「日本から」その意識改革を進めることかもしれないと私は思っている。
 かなり草の根的ではあるがこの対談もその一翼を担う存在でありたい。

(参考ニュース記事
https://www.sankei.com/world/news/180707/wor1807070001-n6.html

プロフィール

佐藤満春(さとう・みつはる) 1978年生まれ。テレビ番組等の構成作家、お笑いコンビ「どきどきキャンプ」として活動中。トイレ博士としてイベントに出演したり、トイレを研究するラジオ番組のパーソナリティーなども務める。日本トイレ協会会員。掃除能力検定士(5級)。名誉トイレ診断士。トイレクリーンマイスター。

高野秀行(たかの・ひでゆき) 1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。
早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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