よみもの・連載

佐藤満春トイレの輪〜トイレの話、聞かせてください〜

第3回 小説家・朝井リョウ氏

佐藤満春Mitsuharu Sato

催眠療法は効果アリ!?

佐藤
おなかが弱いのは、昔からですか?
朝井
高校生になってからです。私は、自分のおなかの弱さは精神的なものだと思っているんですけど、絶対に電車通学が原因なんですよね。中学までは自転車と徒歩だったのですが、高校に進学して電車通学になりまして、完全にそこです。
佐藤
そこが境目ですか。
朝井
私は自分で自分のハンドルを握っているという状態が大事なんですよね。徒歩も自転車も自分次第ですが、電車のハンドルを握っているのは車掌じゃないですか。そして地元は田舎なので一駅の区間が長くて、車内にトイレがついていなかったんです。三年間の電車通学を経ておなかの機能がぶっ壊れました。だから、飛行機とか新幹線は平気なんです。
佐藤
いつでも行けるといえば行けますものね。環境的には。
朝井
そうです。原因は精神的なものだと見定めたので、催眠術のセミナーに行ったんですよ。
佐藤
えっ?
朝井
もう洗脳してもらうしかないなと思って。
佐藤
大丈夫ですよという暗示をかけてもらう?
朝井
そう。海外の事例なんかを調べていると、催眠療法が保険適用内の国もあるんですよね。
佐藤
効果がちゃんとある。
朝井
そうらしいんです。調べたら、テレビでも活動されている催眠術師の方が定期的に有料でセミナーをやっていたので、一回行ってみようと思って予約したんです。
佐藤
へえ、おもしろい!
朝井
まずその先生に「私の最終目標は、おなかの弱さを催眠療法で治すことです。今日はその第一歩目として来ました」と伝えたんです。だけど私、催眠術にすごくかかりにくかったんですよ。どこかで予想はしていたんですけれども。
佐藤
それは残念ですね……。
朝井
その場に三十人ぐらいいたんですが、最後までかからなくて、最終的に全員の目の前で講師の催眠術師の人に催眠をかけてもらうことになったんですが、なんか、だらだら屁理屈を並べて、やってくれないんです。最終的に、あなたはおなかを治したいと言っていたけれども、まずは生き方を直してくださいと言われました。
佐藤
えーっ。
朝井
全員の前で。
佐藤
何ですか、それ。
朝井
最終的に、生き方を怒られたんです。
佐藤
嫌なやつですね!
朝井
一生忘れないです。そして、おなかも結局治らないまま。
佐藤
それはひどい体験をされましたね……。今、一番不安なタイミングは電車ですか。
朝井
そうですね。会社員時代は何より通勤が苦痛でした。会社が嫌なんじゃなくて、通勤自体が嫌で嫌で。
佐藤
自分の車とかで運転するときはタイミングがあるんですか。
朝井
十九歳のときに免許を取って以来一度も運転していない完璧なペーパードライバーなのですが、教習中はおなかの心配をしていなかった記憶があります、自分でハンドルを握っているというのが、やっぱり大事なんでしょうね。
佐藤
自分の意思で停まったりできない乗り物がつらい、ということなんですね。
朝井
そうです。
佐藤
朝井さんがトイレで一番落ち着くベストな環境はどんな感じですか。
朝井
やっぱりまず家ですよね。家の中で仕事ができるように、神様が今の仕事で生きていけるようにもろもろの能力値を調整してくれたんだと思っています。
プロフィール

佐藤満春(さとう・みつはる) 1978年生まれ。テレビ番組等の構成作家、お笑いコンビ「どきどきキャンプ」として活動中。トイレ博士としてイベントに出演したり、トイレを研究するラジオ番組のパーソナリティーなども務める。日本トイレ協会会員。掃除能力検定士(5級)。名誉トイレ診断士。トイレクリーンマイスター。

朝井リョウ(あさい・りょう) 1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年『何者』で第148回直木賞受賞。14年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞受賞。 最新刊は『どうしても生きてる』(幻冬舎)。

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