よみもの・連載

佐藤満春トイレの輪〜トイレの話、聞かせてください〜

第3回 小説家・朝井リョウ氏

佐藤満春Mitsuharu Sato

佐藤
ニューヨークはだめでしたか、トイレ。
朝井
駅にトイレがある日本ってすごかったんだなと……ニューヨークではスターバックスをトイレと捉えていました。でもニューヨークって、まだちゃんとトイレがあるほうじゃないですか。
佐藤
ですよね、きっと。
朝井
それでもダメだったので絶望です。紙も硬いですし。
佐藤
お尻に悪いですね。じゃあ、あんまり遠出するとかというよりも、ずっと身近なところにいたいタイプですね。
朝井
そうなんです。でも、「アイデアは移動距離に比例する」みたいな言葉もあるじゃないですか。そういう言葉を聞くとちょっと揺らぐじゃないですか。
佐藤
さっきの海外旅行の話じゃないですけれども。
朝井
そうです。でも、トイレによって人生が縮小しているかもしれないけれども、それを私は悪いことだと思いたくないんです。
佐藤
ほんとうにそうですよね。僕も大分縮小して生きています。
朝井
良いところでいうと、遅刻とかしなくなりません?
佐藤
全然しないですね。すっごい前に入ります。
朝井
同じくです。
佐藤
一回分のトイレに行く余白を持ちたいから早く動く、ということですよね。
朝井
電車を二回乗り換える日とかは、乗り換えるたび一度トイレに行くということを計算して家を出ます。
佐藤
行ってもいいし、行かなくてもいいという余裕を見ておきたいですよね。
朝井
結局一度も行かなかったりするので、三十分前に着いたりします。
佐藤
ものすごく早く着いたりね、しますよね。僕も思春期とか、女の子とデートに行くとかいうときも、そことの戦いというか……。
朝井
他人と行動するときのプレッシャー、ほんとすごいですよね。
佐藤
最悪じゃないですか。トイレへ行って時間がかかる、女の人のほうがトイレが長いのは許されるけれども、男が長いのってだめじゃないですか。
朝井
男子トイレから男子が出てくるのを女子が待っているの、周りから見ていても意味わかんないですもんね。
佐藤
だから全然だめでしたね。
朝井
トイレによる行程中断でいちいちイライラする、空気が悪くなる人とは、友達にも恋人にもなれないですよね。申しわけないというのもありますし。
佐藤
そうなんですよね。向こうは、もしかしたら気にしていないかもしれないけれども。
朝井
せっかちな人と旅行とか、絶対無理ですよね。
佐藤
トイレの余白をちゃんとつくれる人じゃないと。
朝井
そう。
プロフィール

佐藤満春(さとう・みつはる) 1978年生まれ。テレビ番組等の構成作家、お笑いコンビ「どきどきキャンプ」として活動中。トイレ博士としてイベントに出演したり、トイレを研究するラジオ番組のパーソナリティーなども務める。日本トイレ協会会員。掃除能力検定士(5級)。名誉トイレ診断士。トイレクリーンマイスター。

朝井リョウ(あさい・りょう) 1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年『何者』で第148回直木賞受賞。14年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞受賞。 最新刊は『どうしても生きてる』(幻冬舎)。

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