よみもの・連載

佐藤満春トイレの輪〜トイレの話、聞かせてください〜

第3回 小説家・朝井リョウ氏

佐藤満春Mitsuharu Sato

朝井
席を移動するときに、人にすごい迷惑をかけちゃったりして……。
佐藤
一番端っこで、トイレに行きやすいところを選んで。行かないかもしれないけれども、安心なところに座っておきたいという。
朝井
めっちゃありますね。映画は確かにそうだわ。あと私、大学生のときに一念発起して野外フェスに行ったんです。エレファントカシマシを野外でどうしても聴きたくて。
佐藤
エレカシ。
朝井
中でも『風に吹かれて』さえ聴ければいいと思ってたんです。大好きな曲。
佐藤
名曲ですよね。
朝井
いざステージが始まったのですが、その待機中にちょっと緊張してしまって、一曲目から少し便意を感じていたんですね。『風に吹かれて』はセットリストのきっと後半だろうみたいな緊張感もあり、三曲目くらいで、今行っておかなきゃダメだ状態になってしまい、トイレに走ったんです。そしたら、並んでいるときくらいドゥ〜ンドゥドゥドゥドゥ〜〜ンっていうおなじみのイントロが聴こえてきて……でも、もう一度排出をしないと収まらない状態だったので、仮設の和式トイレにしゃがんだんです。これはつくりでも何でもないんですけれども、座り込んで力を入れているときに、『風に吹かれて』の「遠くで聞こえる そう 遠くで聞こえる」って歌が遠くから聴こえてきたんですよ。そのとき、もうこういう人生なんだよなって。フェスに行く前から、こうなることを知っていた気すらしたんですよね。
佐藤
そういうものだとね。
朝井
そう。トイレにまつわるミスによって、自分はこういう人生なんだって噛み締めたこと、何度もあります。
佐藤
なるほど。すごくわかるなぁ。生きるってことがもうそうなんですよね。
朝井
何を期待してたんだろうって。自分が『風に吹かれて』を野外フェスで聴けるとでもお思いで? みたいな。そういう人生じゃなかったじゃん、これまでずっと、みたいな……。
佐藤
改めてそこで自分の人生のありようを再確認するわけですよね。わかるなぁ。なんかでも、それも悪くないんですよね。
朝井
味わい深いですよね。
プロフィール

佐藤満春(さとう・みつはる) 1978年生まれ。テレビ番組等の構成作家、お笑いコンビ「どきどきキャンプ」として活動中。トイレ博士としてイベントに出演したり、トイレを研究するラジオ番組のパーソナリティーなども務める。日本トイレ協会会員。掃除能力検定士(5級)。名誉トイレ診断士。トイレクリーンマイスター。

朝井リョウ(あさい・りょう) 1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年『何者』で第148回直木賞受賞。14年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞受賞。 最新刊は『どうしても生きてる』(幻冬舎)。

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