よみもの・連載

佐藤満春トイレの輪〜トイレの話、聞かせてください〜

第3回 小説家・朝井リョウ氏

佐藤満春Mitsuharu Sato

佐藤
そういうものなんですよね。僕も大学ぐらいの、まだお笑いを素人でやっているときに、遊びでやっているコンビでライブに出たんですよ。それもライブハウスというか、クラブみたいな、チャラチャラしているところで、大学生のお笑いと、他にバンドとかもいて。みんなお酒とか飲んでいるようなところで、いきがって自分たちのつくったネタをやることになって、その出番前にうんこをしたくなって……。
朝井
あ、もうやだ。ほんとうに嫌。
佐藤
どうしようと思って、でも、もう出番だから行っている余裕はなさそうだなと思って、一回トイレのほうまで、緊張していないふりをして見に行ったんですよ。そしたら、誰か入っていて。男女兼用のやつで……。
朝井
最低だ!
佐藤
ああ、だめだなと思って、一回、おならかもしれないと思って。
朝井
出た、自分を甘やかす妄想!
佐藤
おならをして楽になって……。
朝井
そう思いたいんですよね。わかります。
佐藤
あるじゃないですか。なんか余裕をかましている顔で……。
朝井
こわい。
佐藤
一緒に出るやつがその辺にいたから、ここでブッて出番前におならをこいて、余裕かましている風な、緊張もしていないしみたいな空気を出そうと思ってブッとしたら、完全に出たんです。
朝井
(無言で目を伏せる)
佐藤
で、そのまま舞台に出ましたね。
朝井
お疲れ様です。
佐藤
全然うんこが漏れているんですが……。
朝井
うんこは漏れていないようなネタを。
佐藤
うんこは漏れていないような面で、うんこは漏れていないネタを。
朝井
すごい。
佐藤
うんこは漏れていないようなパフォーマンスをして、うんこは漏れていないふりをして袖に帰って。最悪でしたね。
朝井
ほんとうに、何かの直前にトイレに行きたくなって、行くか行かないかみたいな時間が人生で一番嫌ですよね。この迷いがなかったら、どれだけいいかとほんとうに思います。
佐藤
すごく幸せですよね。
朝井
あの数分で使い倒している判断力を結集させれば、五億円とか稼いでいるかもしれないですよね。
佐藤
それぐらいの重要さですよね。
朝井
この電車に乗るか、次のに乗ることにしてトイレに行くかみたいに悩んでうろうろしているときの自分が一番変な顔してるし、それでいざトイレに行ったら行列だったりとか、結局次の駅まで行ったほうが早かったりとか……ばかみたい!
佐藤
そうですね。だから、トイレ環境がもっと整うという部分と、あとは、そういう人に対して寛容な社会がもっとつくれればいいですよね。
朝井
その通りですね。
プロフィール

佐藤満春(さとう・みつはる) 1978年生まれ。テレビ番組等の構成作家、お笑いコンビ「どきどきキャンプ」として活動中。トイレ博士としてイベントに出演したり、トイレを研究するラジオ番組のパーソナリティーなども務める。日本トイレ協会会員。掃除能力検定士(5級)。名誉トイレ診断士。トイレクリーンマイスター。

朝井リョウ(あさい・りょう) 1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年『何者』で第148回直木賞受賞。14年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞受賞。 最新刊は『どうしても生きてる』(幻冬舎)。

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