連載
ぼくらの遍路は
関口 尚 Hisashi Sekiguchi
 そこは積極的に同意した。肌が白く、表情がほとんど変わらない花凛は、まさにしんとした冬の印象があった。そして、冬の化身という繊細なたとえをした太陽に驚く。がっちりとした体躯を誇っているけれど、中身はこまやかだったりして。
 たどり着いた本堂の前は読経するお遍路でいっぱいだった。残念ながら玲はお経は読めない。お賽銭を入れ、手を合わせるだけで終わりにする。それは太陽も同じようだった。
 次に大師堂へ進む。お遍路はそもそも弘法大師空海に由来のある八十八の寺を巡拝することから始まったという。だから、札所と呼ばれる寺には、必ず空海を祀(まつ)る大師堂がある。大師堂でも賽銭を入れ、手を合わせた。
 コーディネーターの木戸の元へ集合し、次の三番札所を目指す。県道脇の歩道を西へと進んでいく。
 本来、お遍路は四国を時計回りに一周する。一番札所のある徳島県から、高知県、愛媛県、香川県の順だ。だから、南に位置する高知県へ進路を取りたい。けれども、十番札所までは四国の内陸に向かってだいたい横一列に並んでいる。つまり、南下したいのに、まずは西へ向かわなければならない。
 玲が所属する七班は全員で七人。コーディネーターの木戸を先頭に歩く。木戸はときおり振り向いて、大声で指示を出す。
「水分はこまめに補給してな! もう気温が三十度超えてるって知らせが来たからさ」
 まだ朝の八時だというのに三十度を超えているなんて。七月二十日ってこんなにも暑かっただろうか。言われた通り、玲はペットボトルの水を飲んだ。でも、飲んだ水がそのまま出ていってしまっているんじゃないかというくらい大量に汗が出る。
 横を見ると太陽も汗だくだった。首にかけたタオルでしきりに汗を拭いている。歩き遍路はただ歩けばいいだけじゃない。自分の着替えや生活用品をすべて持ち歩かなければならない。
 お遍路プロジェクトの運営委員会が計画した予定では、五十日で歩き終えることになっている。つまり、ほぼ二ヶ月弱の歩き通しだ。その分の荷物となればどうしたって量は多くなる。雨具も必要だし、薬類も持っていきたい。バスタオル、寝巻き、石鹸、シャンプー、メモ帳、懐中電灯、スマートフォンの充電器。どんどん詰めこんでいくと玲の五十リットルのリュックはあっという間にいっぱいになった。人によってはカメラも持っていくだろう。また、女子の参加者は化粧品や日焼け止めなど荷物はさらに増えそうだ。ぱんぱんに膨れたリュックを背負う女子を何人も見かけた。
 そんななか、花凛はほかの参加者より小さめな三十リットルほどのリュックを背負って歩いていた。しかもまだ容量に余裕がありそうだ。荷物が少ないのだ。軽そうでうらやましい。金剛杖を突いて歩く姿も軽やかで、もともと涼しげな顔をしていることもあって余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)に見える。昨日の説明会ではなるたけ荷物は少なめにと言われた。荷物の多さはその人の欲に比例するんだよ、とも。
 荷物の少ない子、花凛。なんだか不思議で気にかかる。


   4      10 11 12 13 14 15 16 次へ
 
〈プロフィール〉
関口 尚(せきぐち・ひさし)
1972年、栃木県生まれ。99年、茨城大学大学院人文科学研究科を修了。
2002年、『プリズムの夏』で第15回小説すばる新人賞を受賞して、作家デビューする。2007年、『空をつかむまで』で第22回坪田譲治文学賞を受賞。
著書に、『君に舞い降りる白』『パコと魔法の絵本』『はとの神様』などがある。
Back number