連載
ぼくらの遍路は
関口 尚 Hisashi Sekiguchi
「そういえばさ、太陽はなんでお遍路に来たの」
 麻耶は違う話題で話し始めた。玲が答えようが答えまいが、どうでもよかったようだった。
 がっくりと玲は肩を落とす。さっきの返答に正解も不正解もなかったはずだ。求められていたのは適当でもなんでもいいからタイミングのいい合いの手だったはず。「どうだろうねえ」とお茶を濁(にご)したり、「あはは」と笑って逃げたりしておけばよかったのだ。それなのに考えすぎて答えられなかった。いつもの玲のパターン。
「麻耶が訊(き)きたいのって、おれのお遍路の動機ってことか」
 太陽が腕組みをする。
「そうそう、動機とか理由があるでしょ」
「それは、ないしょだな」
 さらっと言って太陽は笑う。
「なんでよ。教えてくれたっていいじゃない」
「言いたくなったら言うさ」
「太陽のけち」
「けちってひどいなあ。そもそもお遍路の動機はむやみやたらに尋ねるもんじゃないって言うだろ」
「知ってるよ、あたしだってそのくらい。あたしもちゃんと空気読んで、訊いてもよさそうな人に訊いてんじゃん。筋肉がっちがちにつけている太陽なら能天気そうで大丈夫だな、とかってさ」
「言うにこと欠いてひどいな。こう見えてもおれ傷つきやすいんだぞ」
「そのせりふも似合わない」
 麻耶はわざと冷たく言って突き放す。
「だったら麻耶はどうなんだ。なんでお遍路に来たんだよ」
「あたしはチャレンジ。千二百キロを自分の足で歩いてみたいから。別にひとりで歩いてもいいんだけど仲間と歩いたほうが楽しいじゃん。だから今回のお遍路プロジェクトに申しこんだの」
「ふうん」
 太陽が面白くなさそうにそっぽを向く。
「じゃあさ、玲は?」
 麻耶の矛先がまたもやこちらに向いた。
「え」
「玲はなんでお遍路に来たの」
 メンバーの視線が玲に集まる。注目を浴びるのは得意じゃない。また汗がどっと出た。ただひとり花凛だけは壁に背を預けてうつむいている。まったくの無関心。それはそれで玲を動揺させる。
「お遍路の動機はなんなのって訊いてんの」


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〈プロフィール〉
関口 尚(せきぐち・ひさし)
1972年、栃木県生まれ。99年、茨城大学大学院人文科学研究科を修了。
2002年、『プリズムの夏』で第15回小説すばる新人賞を受賞して、作家デビューする。2007年、『空をつかむまで』で第22回坪田譲治文学賞を受賞。
著書に、『君に舞い降りる白』『パコと魔法の絵本』『はとの神様』などがある。
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