連載
ぼくらの遍路は
関口 尚 Hisashi Sekiguchi
 緊張で固まっていたら麻耶にせっつかれた。玲は後頭部をぼりぼりと掻きながら答えた。
「動機って言われても、ぼくの場合なんて言ったらいいのか、うまく言えないというか」
「あたしみたいにチャレンジ?」
「チャレンジかって言われれば、そういう側面もあるけど」
「側面ってなによ。ずばり言いなって。なにか心に抱えてんの? つき合ってた子にふられて、もっと強くなりたくて来たとかさ」
「ふられたとかはないよ。けど、強くはなりたいかな。もっと違う自分になりたいというか」
「それってつまり自分探し?」
「そういうふうに言われれば、自分探しって言えないこともないんだけど」
「煮えきらないねえ」
 麻耶が渋い顔でため息をつく。
「でも、供養のためといえば供養のためとも言える気がするし」
「え、供養ですか」
 なぜか吉田が驚いた声を出す。長野から来た大学院生だ。髪型はサイドから流すスタイリッシュなもの。眼鏡もおしゃれなスクエアのデザイン。なのに吉田の見た目は昭和のサラリーマンみたいになっている。
「いや、ですけど、ぼくの場合、ちゃんとした供養ができるようになりたくて、お遍路に来たって言ったほうがしっくりくる気もするんで、供養のためと言っていいのか悪いのか」
 麻耶が聞いていられないとばかりに首を振る。
「あのさ、玲。あんたがなに言いたいのか、あたしにはさっぱりわからないんだけど」
「ごめん、そうだよね。ちょっとややこしい話だから」
 核心部分に触れずにうまく話してみようと思ったけれど無理だった。畳の目を見つめて黙っていると、麻耶が畳を手のひらで二度叩く。叩き方で苛立(いらだ)ちが伝わってくる。
「で、結局なんなのよ」
 玲が上目遣いでメンバーを窺うと、誰もが返答を待って注目していた。花凛だけはあいもかわらず興味なさそうにうつむいていたけれど。
 さあ、どうしたらいいだろう。すべてさらしてしまうべきだろうか。そのほうがこの場は収まる。しかし、七班のメンバーと溝ができてしまうかもしれない。このあとのお遍路に支障をきたすかも。
 勇気を出せずにぐずぐずしていると、ふすまがノックされた。
「すみません。こんばんは」
 遠慮気味にふすまが開く。頭を短く刈りこんだ青年が顔を出した。
「失礼します。おれ、三班の原田って言います。相楽玲君の名前を参加者名簿の中に見つけたもんで、もしかしたらと思って会いに来てみたんですけど」
 どうやらお遍路プロジェクトの参加者のようだった。今日はどの班も七番札所の近辺に宿泊している。わざわざ訪ねてきたのだろう。
 しかし、困ったことがある。その原田が誰なのか、玲にはさっぱりわからない。いやな予感がひしひしとしてくる。


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〈プロフィール〉
関口 尚(せきぐち・ひさし)
1972年、栃木県生まれ。99年、茨城大学大学院人文科学研究科を修了。
2002年、『プリズムの夏』で第15回小説すばる新人賞を受賞して、作家デビューする。2007年、『空をつかむまで』で第22回坪田譲治文学賞を受賞。
著書に、『君に舞い降りる白』『パコと魔法の絵本』『はとの神様』などがある。
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